2011 Fiscal Year Annual Research Report
現代契約法におけるプレ・モダンの法の再生とその法史学的再定位
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21730074
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石川 博康 東京大学, 社会科学研究所, 准教授 (90323625)
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Keywords | 民法 / 契約法 |
Research Abstract |
本研究は、債権法・契約法の改正などを中心とした近時の契約法の議論動向において近代法からの脱却を目指す方向性が顕著であることを踏まえ、そのような動向を近代法成立以前の「プレ・モダンの法」の再生として特徴付けるとともに、そうして新たな装いのもとで提示される諸理論について法史学の観点からの再定位を試みるものである。 本年度における重要な研究成果としては、まず、単行本『再交渉義務の理論』(有斐閣・2011年)の刊行が挙げられる。本書は、既発表の論文に加筆・修正を施したものと今回新たに書き下ろしたもの合わせて一書にまとめたものであるが、その新たに書き下ろした部分において、事情変更に際しての司法的契約改訂の正当化根拠に関し、整合性の原理(事情変更に際して,契約と法の二重の欠缺によって引き起こされる規範構造上の不整合性を除去することに関する規範的要請)が措定されるべきであるとの主張を行った。整合性の原理をめぐっては、前著『「契約の本性」の法理論』においてその理論的・法史学的基礎に関し詳細に検討を行ったところであり、事情変更法理という極めて現代的な法理が、その正当化根拠としての整合性の原理を媒介として、「契約の本性」論とも通底する法史学的基盤へと連なり得ることは、本研究によって明らかにし得た重要な視点の一つである。 その他、論文「法律行為概念の歴史性と普遍性」では、法律行為の概念、とりわけ19世紀ドイツのパンデクテン法学からの直接的な影響の下での派生的ヴァージョンとして形成された法律行為の概念およびそれに関する諸理論が、様々な歴史的・社会的条件によって前提付けられたものであり、またローマ以来の契約に関する法制度の歴史の中では相対的に近時において現れた一つの特異的なヴァージョンに過ぎないことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
4年間の研究期間のうち本年度が3年目であるが、諸論文の執筆・公表に加え、本研究期間において予定していた2冊の単行本の刊行を本年度までにおいて既に達成しており、研究計画全体として概ね順調に進んでいるものと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では次年度が最終年度となるため、今後は、いくつかの個別的な検討課題について継続的に取り組みつつ、これまでの期間における研究成果の取りまとめを行う予定である。具体的には、まず、昨年度より、ローマ法における非占有質や抵当権者による占有取得に関する問題(interdictum Salvianumおよびactio Servianaの問題)についての検討を進めており、この問題に関する一定の見通しを獲得して研究成果の公表への準備を進める予定である。また、契約上の責任制限条項に対する規制をめぐる問題に関し、1996年のクロノポスト判決以降のフランスの判例における本質的債務論の展開、特に、2005年の破毀院混合部判決以降の判例法理の展開過程について、検討を予定している。その他、契約成立段階における当事者の合意をめぐる問題に関し、特に消費者撤回権の契約法体系上の位置付けという個別的な問題にも踏み込みつつ、検討を行う予定である。
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