Research Abstract |
本研究は,フランス法との比較研究を通じて,三者間に債権がまたがって存在する場合になされる相殺(以下,「三者間相殺」という)の要件および第三者への対抗力も含めた効果を検討し,これを明らかにすることを目的とする。 昨年度(平成23(2009)年度)の研究においては,民法に規定された三者間相殺(法定の三者間相殺,三者間法定相殺)を検討して類型化した。そして,その類型化を元にして,判例を分析することによって,各類型の特徴を明らかにした。 本年度(平成22(2010)年度)は,これにつづいて,その第三者効(担保的機能)の検討を行った。実務において,もっとも重要となるのは担保的機能の問題である。実際に,最三判平成7・7・18金法1457・37で問題とされたのも,三者間相殺の担保的機能であった。相殺の担保的機能の根拠(相殺を第三者に対抗するための要件)として,重要となるのは,二者間相殺(バイラテラル・ネッティング)と同様に,「債権間の牽連性」である。本年度の研究においては,この債権間の牽連性に着目して,フランスにおける議論を参考にしながら,三者間相殺の担保的機能の優先順位を決定するメカニズムを明らかにした(深川裕佳「先取特権の優先順位の決定方法についての一考察--フランス民法典における特別先取特権の順位を参考にして--」東洋法学54巻1号(2010年)43-84頁)。 本年度の研究において残された問題は,二当事者間で締結される契約であって,三者にまたがって存在する債権の間の相殺を目的とするもの(すなわち,三者間相殺契約)の有効性およびその対抗力(担保的機能)に関する検討である。この問題については,引き続き,研究を行う予定である。
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