2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21730171
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大久保 正勝 筑波大学, 大学院・システム情報工学研究科, 准教授 (30334600)
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Keywords | ミクロ計量分析 / 労働所得リスク / 不完備市場モデル |
Research Abstract |
昨年度に引き続き、財団法人家計経済研究所が実施している「消費生活に関するパネル調査」を用いて労働所得変動の実証分析を行った。本年度は、前年度までに行った分析をさらに3つの方向で拡張した。第1に、実証結果をさらに厳密に評価するために、アンバランス・パネルデータを新たに構築し、MaCurdy(2007)の方法を応用することで、推定方法をアンバランス・パネル環境に適用できるように拡張した。第2に、この新たに構築したアンバランス・パネルデータを用いて労働所得変動モデル(所得プロファイル不均一モデルと単位根モデル)を再推定し、バランス・パネルデータから得られた推定結果と比較した。さらに、サンプルを学歴グループ(大卒グループ、非大卒グループ、高卒グループ)に分け、グループごとに労働所得変動モデルの推定を行った。第3に、第1段階推定に職業ダミーを入れることで、職業差が推定結果に与える影響を評価した。以下のことが明らかとなった。第1に、パネルデータの種類に関係なく、所得プロファイル不均一モデルを用いると、労働所得ショックの持続度を表す自己回帰パラメータは有意に1より小さく推定される。これに対して、労働所得成長率の個人差を無視した単位根モデルでは、自己回帰パラメータは上方バイアスを持つ。第2に、学歴グループごとに所得プロファイル不均一モデルを推定すると、労働所得成長率のばらつき度を表すパラメータは有意に推定されものの、グループ間の差は米国の場合と比べるとわずかである。第3に、職業差をコントロールしない場合、労働所得成長率のばらつき度を表すパラメータの推定値は、上方バイアスを持つ可能性がある。以上の結果は、確率的ショックよりも技能などの個人差が労働所得変動の主要な決定要因であることを示唆しており、個人の異質性を考慮した不完備市場モデルを構築する上で重要な結果と考えられる。
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