Research Abstract |
本研究は,要素賦存と生産パターンの関係をヘクシャー=オリーン・モテルにもとつき明らかにしようと試みるものである.研究の目的は,先行研究で残されているパズル-要素価格均等化の成り立つ領域(コーン)が世界にふたつしかないという観測事実のもとで,各国間の要素価格を説明することができない-を理論・実証的に明らかにすることにある. 平成21年度の成果は大きく四つにまとめられる.第一に,実証分析に必要なデータベースの構築と,Schott (2003, American Economic Review)のモデルの改良を終えたことである.具体的には,要素賦存,産業別の資本集約度,産出,賃金などのデータを日本の各地域別のデータベースをもとに整備し,改良したモデルのプログラム化を行った. 第二に,第一の成果を踏まえ,中間的な成果を"Paths of Development and Wage Variations"という論文としてまとめたことである.この論文では,不完全特化を導入することで,各地域間の牛産パターンと要素価格の変動をヘクシャー=オリーン・モデルの枠組みである程度説明できることを明らかにした. 第三に,第二の成果と関連して,不完全特化を導入しないモデルについても分析を行い,中間的な成果を"The 'Flying Geese' Patterns of Industrial Development"という論文としてまとめたことである.不完全特化を導入しないモデルが雁行形態的経済発展のパターンと整合的であることを示し,ヘクシャー=オリーン・モデルと雁行経済発展の関係について分析した. そして第四に,コーンが複数ある状況の貿易政策の効果についても理論的に考察し,その中間的な成果を"Trade Liberalization, Economic Growth, and Income Distribution in A Multiple-cone Neoclassical Growth Model"としてまとめたことである.この論文では,コーンが複数ある状況では,保護的な貿易政策によって所得の増加と所得不平等の緩和につながることがあることを明らかにしている. これらの論文を国内外の学会・研究会で報告した.そこでのコメントを踏まえ,現在改訂を行っている.
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