Research Abstract |
本研究は,実証およびシミュレーション分析を通し,観光需要回復のための有効な施策の検証を行うものである。そのためには,災害リスクに関する観光客の心理と行動モデルを考察し,その関係を経済モデルの体系の中に位置付ける必要がある。分析モデルとして,観光地の立地,特に複数地域への行動分析を行う必要があることから,選好の代替性を厳密に扱える経済モデルを用いる必要がある。 第一に,リスク認知と行動の関係をモデル化するため,静学モデルにおいて,災害のリスク認知と回避行動について検討し,理論・実証分析を行った。第二に,複数の代替的な観光地での観光行動を実証するためのモデルについて検討した。 第一のリスク認知と行動の関係をモデル化において,まず,支払意志額の概念のもとで,災害のリスク認知と回避行動について理論分析を行った。その結果,回答者自身が海水浴場を利用中に何らかの怪我をした場合,防災対策に対する支払意志額が高くなる傾向があり,一方,自分以外の者が怪我をした場合には支払意志額が高くなるという傾向はあまり見られなかった。本調査の結果では,自身の経験のみが便益に反映していることが示唆された。また,津波防災に対する利用者の意識の低さがみられる一方,海水浴場の場所(空間)を問わず,ある一定層の利用者には,津波防災に対する支払意志がみられた。 第二では,Kuhn-Tucker Modelを用いた観光需要関数のパラメータ推計を行った。その結果,観光需要の代替的な弾力性ならびに観光地対する個々人の認知度が需要量に影響していることが示された。また、旅行費用が10%~90%まで減少した場合の各観光地に対する(補償変分に基づく)便益値は,289円/年~37,670円/年として計算された。
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