Research Abstract |
貧困層の所得もその国の平均所得と少なくとも同率で成長するという経済成長は,プロ・プア成長と呼ばれ,近年,多くの研究者の関心を集めている。本研究の目的は,ロシアの経済成長がプロ・プア成長であるか否か,また,ロシアにおいて,経済成長がプロ・プア成長となりえるような制度がもともとロシア経済システムの中に埋め込まれているか否かを明らかにすることである。 初年度にあたる本年度では,まず,マクロレベルの地域(連邦校正主体レベル)の視点から,ロシアの経済成長がプロ・プア成長といえるか否かを明らかにすべく実証分析をおこなった。具体的には,ロシア連邦統計局(Rosstat)が公表している1995-2006年の連邦校正主体レベルの地域データを用いて,貧困弾力性に関するパネル分析をおこなった。 本研究の実証分析によって,経済混乱期と経済成長期のいずれの時期においてもロシア全国レベルの経済成長はプロ・プア成長とはいえないこと,また,経済混乱期と経済成長期のいずれの時期においても,豊かな地域の方が貧しい地域よりも経済成長の果実を享受していることが明らかになった。これらの実証結果が示すところは,ロシアにおいて,経済成長は貧困を削減するという意味において必要条件といえるが,それと同時に,経済成長は貧困削減の十分条件であるといえる根拠はみられなかったということである。これらの一連の実証結果は,ロシアの地域間格差の広がりという事実とも極めて整合的であるといえる。本研究の分析成果について,国際学術研究集会・国際学会等において研究報告をおこない,有益なコメントや助言をえることができた。来年度は,これらのコメントを反映する形で,さらに本研究内容を掘り下げ,また,制度との関係についても考察することにしたい。
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