2010 Fiscal Year Annual Research Report
増税回避的な日本型税制の特質に関する史的研究-シャウプ勧告を素材に
Project/Area Number |
21730246
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
井手 英策 慶應義塾大学, 経済学部, 准教授 (80337188)
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Keywords | シャウプ勧告 / ドッジライン / 地方財政平衡交付金 / 地方財政委員会 / 中間層 / 政策減税 / 財政投融盗 / 日本銀行 |
Research Abstract |
本研究はドッジラインの一環として実施されたシャウプ勧告に着目し、それにもとづく税財政改革が増税回避的な現代の税財政システムにどのような影響を与えたのかについて検討した。明らかにされたのは以下の諸点である。(1)勧告に示された地方財政平衡交付金をめぐって国と地方財政委員会の激しい政治的対立が惹起された。その結果、地方の参画を排除し、政策的に地方を誘導可能な政府間財政関係が構築され、かつこれを体現する地方財政計画の整備も進んだことによって、その後、国の財政負担を一部地方に求めながら、それを地方税の増徴で賄う対応が見られるようになった。(2)ドッジラインの制約によって、シャウプ使節団が勧告可能な減税規模が限られたため、勧告にもとづく税制改革は中間層に厳しい累進所得税を生み出してしまった。高度経済成長期には急増する税負担を緩和するため政策減税が実施されたが、歴年の減税が人びとの政治選好に織り込まれてしまい、1970年代における所得税の増税を著しく困難にした。(3)ドッジラインはシャウプ勧告の大枠を規定すると同時に、金融を通じた経済成長の促進をもくろんでいた。財政投融資の制度化や日銀の政策委員会の設置に強い影響を与えたが、これらの中間制度は、むしろ財政運営上で生じた困難を金融的手法で解決する道を開き、増税を回避しつつ小さな政府を実現するための原動力となった。これらのファクトファインディングスは、租税の負担や経済的な効果に議論が集中しがちな租税論に対して、租税政策は政府間財政関係や財政投融資、中央銀行政策といった諸要因の相互作用の中で把握する必要があるという見かたを示したという意味で問題提起なものである。こうした構造分析が進めば、日本の税財政システムを包括的に把握することができ、さらには巨額の財政赤字がもたらされたメカニズムを説得的に論じることも可能となる。
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