2011 Fiscal Year Annual Research Report
アジア各国における金融政策や金融システム改革の債券市場と銀行システムへの影響
Project/Area Number |
21730267
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
猪口 真大 京都産業大学, 経営学部, 准教授 (60387991)
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Keywords | 銀行システム / 不良債権 / アジア金融危機 / 金融市場 / 東南アジア |
Research Abstract |
平成23年度においては、まずアジア諸国の銀行部門改革に焦点を当て、アジア危機後の不良債権処理に有効であった要因を分析した。具体的には、個別銀行の不良債権比率に対して、公的機関による債権買い取り、マクロ経済の変動、個別銀行の特性などがどのような影響を及ぼすのかを実証分析を用いて明らかにした。推定には、通常のパネル分析に加えてダイナミックGMMも利用した。また、不良債権比率の分母である貸出額についても推定し、上記の要因が不良債権額自体に影響を与えたのか、貸出への影響を通じたものだったのかも考察した。対象国はタイとマレーシアである。 推定の結果、マレーシアでは、個別銀行の特性が重要であり、特に、規模の大きな銀行は不良債権と貸出の双方を減少させたことが分かった。タイでは、不良債権の買い取りが不良債権処理に効果があったことが示され、さらに、マクロ経済の改善が、貸出増加も通じて不良債権比率を下落させていたことがわかった。これらから、マレーシアでは相対的に銀行部門の改革が不良債権処理に重要だったと考えられる。一方で、タイでは公的債権買取機関をもっと早期に設立しておくべきであったことが示唆される。本研究は、アジア各国の不良債権処理に効果的な要因を示した点に意義がある。こうした研究の蓄積は、今後の新興国における不良債権問題の予防の観点からも、同様の問題が発生した際においても必要であるが、これまで学術的な分析がほとんどされてこなかった。 次に、債券市場に関する研究に着手した。分析は継続中であるが、まず、タイ、フィリピンを対象に、債券のイールド・カーブとそれに影響を与える要因について分析を開始している。米国などの先進国を考察した先行研究と同様の手法を用いることにより、その結果から、アジア各国の債券市場の整備に関する現状や金融政策における問題等を検証できる。また、今後の改革方向も考察する予定である。
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