Research Abstract |
本年度は,リスク事象に対する2つの会計処理方法に関して,内容,適用している会計基準,機能および基礎となる考え方を検討した。これらの検討により,主に以下の2つのことが明らかになった。 第一に,アメリカの現行会計基準の分析を通じて,蓋然性の高低と債務性の有無を不確実性事象の認識規準にすることの相違について明らかにした。リスク事象の会計処理方法にはSFAS5型とSFAS143型があり,両者は,認識規準が不確実性事象の蓋然性の高低か債務性の有無かという相違に基づいて区別される。現行会計基準では,不良債権,偶発損失,税務不確実性に係る会計処理でSFAS5型を採用し,ARO負債,FDCO負債,債務保証に係る会計処理でSFAS143型を採用している。SFAS5型の対象は受動的性質の不確実性事象であり,SFAS143型の対象は能動的性質の不確実性事象である。受動的性質のリスク事象はSFAS5型を適用することで損失の早期計上が可能になり,能動的性質のリスク事象はSFAS143型を適用することで負債の早期表示が可能になる。 第二に,どのような考え方を採れば偶発資産が認識されるのか,認識される偶発資産の性質はどのような性質か,認識の根拠は何か,測定値はどのような値かを明らかにした。偶発資産の計上にあたっては,便益の発生,過去事象の生起,資産の本質,蓋然性の閾値の規準,流通市場の役割,測定へのアプローチなどを巡ってさまざまな見解が存在するが,これらの各論点は密接に関わっており,二事象観,一事象観最終的便益説,一事象観派生便益説という大きく3つの見解に整理できる。就中,一事象観最終的便益説と一事象観派生便益説がリスク事象の2つの会計処理方法と密接に関わっている。
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