2011 Fiscal Year Annual Research Report
決算発表と私的情報に基づく取引確率との関連性に関する実証研究
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21730369
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
村宮 克彦 神戸大学, 経済経営研究所, 講師 (50452488)
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Keywords | PIN / オーダー・インバランス / 決算発表 / 情報トレーダー |
Research Abstract |
将来の不確実性に直面する投資家からすると、企業内部者から公表される業績予想情報は、投資意思決定に際して重要な情報の1つである。したがって、業績予想開示制度は、情報の需要サイドである投資家にとって不可欠な制度であると考えられる。しかしながら、一方で供給サイドである企業側からは、近年その制度に懐疑的な声が聞かれるようになっている。そうした背景の中、最終年度となる本年度は、業績予想開示企業と非開示企業との比較を通じて、年次決算短信を通して行われる業績予想の開示が、その後の期間における私的情報に基づく取引確率(投資家間の情報の非対称性レベル)に影響を及ぼすかどうかを検証した。 分析の結果、業績予想開示企業ほど、私的情報を収集しようとする情報トレーダーのインセンティブが低く、その結果、情報の非対称性レベルが低く抑えられていることを明らかにした。この結果は、業績予想の開示が、投資者間の情報の偏在を是正する役割を果たしていることを示唆するものである。先行研究では、情報の非対称性の低減が、流動性を向上させ、ひいては資本コストの低減をもたらすという証拠が蓄積されている。これらの証拠を加味すると、分析結果は、業績予想を開示すること自体が、高流動性や低資本コストの誘因となっていることを暗示する。これらの経済的帰結は、業績予想の開示が企業側にもたらすベネフィットに他ならない。近年、業績予想開示制度に否定的である企業が多く、また既に業績予想を非開示とする企業が増えているという。分析結果は、業績予想開示制度が、需要サイドである投資家のみならず、供給サイドである企業側にもベネフィットをもたらしていることを意味しており、その制度がいかに重要なものかを明らかにしたのである。 この研究成果は、証券アナリストジャーナル(2011年6月号)へと掲載された。
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