2011 Fiscal Year Annual Research Report
島嶼地域からの疎開離散者に関する社会学的研究:小笠原・硫黄諸島を中心に
Project/Area Number |
21730400
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
石原 俊 明治学院大学, 社会学部, 准教授 (00419251)
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Keywords | 社会学 / 歴史社会学 / 小笠原諸島 / 硫黄島 / 島嶼 / ディアスポラ / 疎開 / 占領 |
Research Abstract |
本研究の目的は、日本軍によってアジア太平洋戦争の前線に置かれ強制疎開や軍務動員の対象となり、戦後も長らく故郷喪失と離散を強いられた小笠原諸島や硫黄諸島の人びとが、いかなる経験をくぐり抜けてきたのかを、歴史社会学的な手法により明らかにすることにある。 本年度は、小笠原・硫黄諸島に対する米軍の占領が既成事実化する1940年代後半から小笠原諸島の施政権返還が実施される1968年にかけて、戦後東アジア・西太平洋の構造的矛盾を背負わされ帰島を許されなかった両諸島の疎開離散者(ディアスポラ)たちが、主に集団レヴェルで、日本や米国など国家の法的措置や政策に翻弄されながら、どのような試行錯誤を重ねていったのかを検討した。とりわけ、米国による先住移民(の子孫たち)のみへの帰島許可に対抗して内地出身者(の子孫たち)が結成した組織化された運動体(小笠原島・硫黄島帰郷促進連盟など)の動向と、これをめぐる離散島民の状況について分析を進めた。具体的には、両諸島民の難民化の責任は明らかに<日米合作>にあるにもかかわらず、両諸島民を帰島させないための補償金が<日米合作>で捻出され、その配分をめぐって島民の運動に分裂が持ち込まれ、両諸島民の難民化の責任が当事者である島民たちの側に押しつけられていくプロセスを、小笠原村教育委員会や国立国会図書館をはじめ各機関が所蔵する一次資料の収集・分析に基づき検討した。 また本年度は、小笠原諸島と硫黄諸島をめぐる「時事問題」がマスメディアで取り上げられることが多かった。ひとつは父島・母島とその周辺の島々がユネスコ世界自然遺産へ正式登録されたため、もうひとつは硫黄島から鹿児島県西之表市馬毛島への米軍空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)の移転計画が具体化したためである。しかし、マスメディアの両諸島に関する頻繁な報道のなかで、両諸島に生きた人びとの社会史的経験はごく断片的にしか言及されなかった。そうした主流の報道状況に批判的なスタンスを維持しながら、専門学術誌や総合学術誌への寄稿から、市民講座での講演、新聞へのコメント、ラジオへの出演などに至るまで、本研究課題の成果にかかわる「社会」への「発信」に追われた1年間でもあった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献資料調査に関しては、ほぼ当初計画通りに進展している((2))。反面インタビュー調査については、当初計画からやや遅れている((3))。インタビュー調査が遅れている理由のひとつは、前項で述べたように、世界遺産登録をきっかけとして小笠原諸島が社会的に大きく注目されるなかで、学術誌への寄稿、市民講座での講演、新聞やラジオでのコメントなどを多数実施し、また今年度正式発足した小笠原村陸域ガイド講習プログラムの講師を務めるなど、研究成果の発信や社会への還元に追われることとなったためである。ただし、このことを別の面からみるならば、成果発信や社会還元ついては当初の計画以上に進展しているといえよう((1))。以上の進捗状況を総合的に自己評価した結果、(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、本研究課題の最終年度となる。すでに本年度までに、下記「雑誌論文」欄記載の「小笠原諸島の近代経験と日本」(『科学』948号)、「小笠原-硫黄島から日本を眺める-移動民から臣民、そして難民へ」(『言語文化研究』23巻2号)、「ディアスポラの島々と日本の「戦後」-小笠原・硫黄島の歴史的現在を考える」(『別冊環』18号)など、研究成果に関する総説的な論考は公刊を完了しているが、さらに調査を進め、研究成果に関する各論的な論考を執筆する見込みである。
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