2011 Fiscal Year Annual Research Report
博物館における戦争展示とその受容に関する基礎的研究
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21730408
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
金子 淳 静岡大学, 生涯学習教育研究センター, 准教授 (00452178)
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Keywords | 博物館 / 展示 / 戦争 |
Research Abstract |
本研究は、公立の歴史系博物館における戦争展示の具体的な事例を取り上げ、そこで展開されている自治体による「戦争の語り」の内実とその姿勢を明らかにしていくことを目指すものであるが、最終年次となる平成23年度においては、これまでの文献調査の成果を踏まえながら、戦争展示をめぐって繰り広げられた論争に焦点を当てて調査を進め、3年次にわたる研究課題の総括を行った。 具体的には、常設展示におけるパネルの文言をめぐって県議会を巻き込む論争へと発展した埼玉県平和資料館の事例を中心に、戦争展示が戦争観の形成に寄与し得るかどうかの考察を行い、戦争展示が持つメッセージの効果やその受容のプロセスについて検証した。その成果は、「戦争観の形成と戦争展示-「熱い論争」と「冷ややかな無関心」という落差をめぐって」(『静岡大学生涯学習教育研究』14号、2012年)としてまとめた。 本研究においてもっとも重視していた、戦争展示のメッセージがどのように受容されるのかという課題については、ミュージアム・スタディーズにおける来館者研究やマス・コミュニケーション研究、メディア論などの動向を参照しつつ理論的考察を行う一方で、展示内容の意思決定に関わる学芸員の役割を射程に収めながら、具体的な事例に基づく検証を行った。その結果、さまざまな政治的アクターが関わりながら決定された戦争展示においては、その論争的性格ゆえに、来館者の理解を前提としたコミュニケーションが想定されていない現状が明らかとなり、戦争展示のメッセージの「宛先」や受け手の存在を想定したコミュニケーションを構築していくことの課題が改めて浮き彫りになった。
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