2009 Fiscal Year Annual Research Report
虚妄と切実の間-改革開放以降における「欲望」とイデオロギーとの関係をめぐって
Project/Area Number |
21730421
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Research Institution | The University of Shimane |
Principal Investigator |
王 鳳 The University of Shimane, 総合政策学部, 助手 (90528001)
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Keywords | 欲望 / イデオロギー / 文化装置 / 階層 / 社会意識 |
Research Abstract |
改革開放以降の中国社会における人々の意識について、従来の研究では、多くの場合「欲望の解放」というキーワードで語られてきた。このような視点を取ることによって改革開放前後の社会意識の違いが浮き彫りにされ、中国社会の問題点や消費文化の台頭などを認識するのに有効であるが、しかし一方、この視点を取った瞬間に、現代人の生きかたに「精神的なものに興味がない」「エコノミックアニマル」などの批判の目線が投じられて、「間違っている」或いは「正しくない」生き方と価値の判断が下されてしまう。これは、現実を生きる人々の内面世界の理解にふたを閉めてしまい、現実はある種の「正しさ」を基準に否定された。このような「欲望虚妄説」が人々の外側になって市場経済が確立された後の90年代以降の特徴をとらえたのに対して、個人の角度から見る際に90年代以降の特徴がどのようなものになるだろうか。 上記の問題意識に立ち、筆者は中国国内で行われた社会意識の変化に関する言説をレビューした。80年代以降の若者(青年)価値観の変化という角度や、また伝統から近代へという「社会転型」の考え方に基づいて意識の変容を捉える研究を主とする価値観研究、「新イデオロギー」説や「欲望弁証法」説を代表とする、市場経済の確立によって大きく変わった中国社会の文化的状況についてのカルチュラル・スターディズ研究を整理した。筆者は、改革開放以降の人々の精神面の変化を説明するのに、一方に「正しい」生き方を提示し規定するもの/規範となる支配的な「大きな物語」が退場し「正しさ」に関する判断が個人の裁量に任せる部分になり、もう一方、階層構造の再編によって「能力」に関する言説の登場だという視点が必要だと指摘する。このような個人にとっての社会の性格の変化に関する考察が、90年代の文化状況の議論の中に欠落していたという指摘し、2010年度の研究につなげたいと考えている。
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