2011 Fiscal Year Annual Research Report
戦後ドイツ社会政策の理論と実際に関する研究-社会的市場経済との関連から-
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21730450
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
森 周子 佐賀大学, 経済学部, 准教授 (00433673)
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Keywords | ドイツ / 社会的市場経済 / 社会政策 / 社会保障 / 最低生活保障 / ハルツIV法 / 年金 / 最低所得に基づく年金 |
Research Abstract |
まず、ドイツの最低生活保障制度について、特に2005年のハルツIV法による改革以降の展開に着目して研究を行った。特に、上乗せ受給者(働いていながら、所得の不足分を補うために失業手当IIを受給する者。ワーキングプアとほぼ同義)の存在に着目し、上乗せ受給者を減少させようとするのか、あるいは上乗せ受給者の存在を容認していくのかは、政策立案者が、十分な所得を得られる職を求職者全てに保障できると考えているか否かによって異なる、と主張した。 また、2005年1月より新設された、稼得能力を有する者への最低生活保障制度である「求職者基礎保障」制度の特徴についても考察した。ここにおいて、この制度は、就労への努力と引き換えに給付を実施する、というワークフェア的発想のみに基づくものではなく、その就労が必ずしもそれ自体で生活に足る十分な所得を得られるものであることを前提とせず、所得の不足分は公的給付で補うという、ベーシック・インカム的発想をも兼ね備えた制度であると結論づけた。 次に、ドイツの公的年金保険制度についても、特に女性と低賃金労働者の年金に焦点を当てて研究を行った。そして、彼らの年金額が低額になることを防ぐための方策として、日本の基礎年金のような最低保障年金の導入ではなく、彼らが一定の収入を得たものとみなして年金算定式を調整し、一定の年金額を得られるようにする、「最低所得に基づく年金」という仕組みがかつて存在し、現在それを復活させようとする動きがみられることを指摘した。 これらの制度の考察を通じて、所得の不足が例外的な事態ではなく常態化しつつあることを所与として捉え、所得を増加させるための努力と並行しながら、所得の不足分を公的給付によって補填していくという、今後の新たな社会保障のあり方が展望されえた。また、日本の最低生活保障制度、および公的年金のあり方を考える上での示唆をも得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では2011年度に戦後ドイツの年金保険・医療保険について、特に2000年代における改革動向に着目しながら考察する、としていたが、年金保険、および2010年度に従事していた最低生活保障政策の考察に時間を費やしたことから、医療保険に関しては未だ手つかずとなってしまった。 また、「研究の概要」でも記した「今後の新たな社会保障のあり方」を、社会的市場経済概念と関連付けて考察するまでに至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定では最終年度である本年度にはドイツの公的扶助に関する考察を行うとしていたが、2010年度・2011年度と、最低生活保障政策の研究に従事するなかで考察がほぼ完了した。そこで、今年度は、2011年度に着手する予定であったが手をつけられなかった医療保険制度について考察を加えることとする。 また、「研究の概要」でも記した「今後の新たな社会保障のあり方」を、社会的市場経済概念と関連付けて考察する作業にも着手する。
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