Research Abstract |
本研究の目的は,感情表出の葛藤場面を設定し,他者との関係性が感情コミュニケーション過程に及ぼす影響を検討することである。本研究では,対人間で感情表出の葛藤が生じる場面として複数観衆場面を設定し,観察者(観衆)との関係性が表出行動に及ぼす影響について実験的に検討した。実験では,観察者との関係性(友人観察者あり・未知観察者あり・観察者なし)を操作した条件において,快感情喚起映像呈示中および会話中の非言語行動,および,感情や公的自己意識,内的他者意識といった主観的指標を測定した。 その結果,発話の累積時間が,友人観察者群は未知観察者群や観察者なし群と比べて長いという結果が得られた。一方,笑顔や視線については,観察者の関係性による効果は認められなかった。したがって,面識のある観察者の存在は,言語的コミュニケーションを促進するが,非言語的コミュニケーションには影響しないと考えられる。面識のない観察者の存在は感情表出の葛藤をもたらし,表出行動を抑制すると予想していたが,実験結果からは表出行動に対する影響は見いだされなかった。このことから,友人関係のコミュニケーションは排他的であり,面識のない他者に影響されないことが伺える。主観的指標と表出行動の関連性を検討したところ,会話セッションにおいて,公的自意識と発話の間に負の相関関係が認められた。また,笑顔はPA得点と正の相関を,視線はNA得点と負の相関関係を示した。このことから,言語的表出は社会的動機を反映する主観的指標の影響を受ける一方,非言語的表出は個人の感情を反映していたことが考えられる。今後,観察者の人数,社会的地位など,観察者の影響力を増した状況において,感情コミュニケーションへの影響を検討することが望まれる。
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