Research Abstract |
系統発生上,ネガティブ感情は多くの動物種に共通にみられ,生存上適応的であったが,我々人間においては必ずしもそうではない。本研究では,"なぜ人間においてネガティブ感情は不適応的に働くのか","ネガティブ感情に適応的な側面はあるのだろうか"ということ(ネガティブ感情の適応度)を,実験や調査によって検討していく。 今年(H.21年)度は次年度に向けての予備実験が主たる活動であった。本実験では,ネガティブ感情を人為的に誘発し,その感情が記憶や意思決定にどのような影響を与えるのかを検討する予定である。研究仮説においては,ネガティブ感情がよい影響をもたらすか,悪い影響をもたらすかは当事者が"制御資源"をどのくらい保持しているかに依存していると考えている。その仮説を検討するためには,制御資源の残存量(消耗量)を測定したり,感情を誘発したりする手段を考案する必要があり,今年度はそのための実験や分析を行った。 制御資源を測定する課題(アナグラム課題)については,精度の高いものが開発された。しかしながら,感情誘発課題に関しては,先行研究(Stapel & Koomen, 2005)と同様の手続きて感情プライミング課題)をとると,実験参加者に実験意図を悟られるおそれがあることがわかった。そのため,感情誘発課題については,改良を施す必要があり,現在データを収集しているところである。 現在までのところ,制御資源を測定する課題が完成したのみであり,当初の計画に比べて若干進行が遅れているという事実は否めない。しかしながら,これまで我が国では."制御資源"という観点から実施された感情研究,自己制御研究は乏しく,この課題が開発されたことで,これらの研究が活性化していくことが期待される。
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