Research Abstract |
前年度までの実験で,社会不安の低減を助けることが確認された行動の頻度を高めることで,高社会不安傾向者の不安得点が下がり,その後も不安の低い状態が維持されるかを検討することを目的とした。 対象は,社会不安傾向を自覚する,都内の私立大学に在籍する学生30名であった。大学の学生相談室の協力のもと,プログラムの参加条件に合致する学生に,広く参加を呼びかけた。対象者を15名ずつ,ランダムに2群に割り付け,一方を介入群,一方をウェイティングリスト群とした。両群の社会不安得点には,プログラム開始前の時点で有意な差は見られなかった。 プログラムでは,「社会不安に対する適切な対処行動を学ぶ」という観点から,心理教育を実施し,集団での会話などのエクスポージャー課題を実施した。その際,先の社会不安を低減する行動の頻度を高めた際の社会不安得点と,普段通りに課題に臨んだ際の社会不安得点を比較した。なお,いずれの条件も被験者間でカウンターバランスを取り,「対処行動が効くと信じている度合い」と「対処行動をうまく使いこなせるという見通し」について,それぞれVASによる評定を求めた。 その結果,対処行動を行ったか否かにかかわらず,時間とともに主観的不安の指標は減少する傾向が見られたが,パフォーマンスの自己評価や全般的な社会不安得点の低減率は,対処行動を行った場合に有意に高くなることが示された。また,対処行動が効くと信じており,それをうまく使いこなせるという見通しが高かったものは,そうでないものと比較して課題開始前の不安が低いことが示された。プログラム終了後の社会不安得点は,介入群の方がウェイティングリスト群よりも有意に低く,介入の効果はプログラム実施1カ月後にも維持されていた。 以上のことから,対処行動を用いることによって,社会的な場面に対する効力感が増し,社会不安が下がることが示唆された。
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