Research Abstract |
研究1では,自らの思考過程を言葉に置き換えること(以下,言語化)が洞察問題解決に及ぼす影響を検討した。具体的には,清河・桐原(2008)同様,「どのようにして問題に取り組んだか」を言語化する記述的言語化条件,「問題の取り組みのうち,どのような点がよくなかったか」について焦点化して言語化を行う反省的言語化条件,そして,課題とは無関連な言語化を行う統制条件における解決成績を比較した。その結果,「睡蓮」問題に関して,記述的言語化条件と反省的言語化条件で,統制条件に比較して成績が低くなる言語隠蔽効果が示された。記述的言語化条件において言語隠蔽効果が示されたことは先行研究と一致した結果であり,解決を阻害している制約が言語化しやすい課題では,言語隠蔽効果が頑健に生じることが示唆される。しかし,反省的言語化条件でも言語隠蔽効果が得られたことは,先行研究と異なった結果であった。この点については,反省的に言語化したとしてもうまく作用しない問題が存在する可能性を示唆している。 研究2では,洞察問題解決において非言語的な情報の影響が果たす役割を検討した。具体的には,Tパズルを題材として,問題解決時に,自己および他者の取り組み(試行)を観察することの影響について検討をした。自分の試行を「自分のもの」として観察する自己観察条件,他者の試行を「他者のもの」として観察する他者観察条件,実際には自分の試行であるにもかかわらず「他者のもの」として観察する疑似他者観察条件,そしてベースラインとなる個人条件の4条件を設定し,解決成績と解決を妨害している不適切な制約の緩和度について比較した。その結果,自己観察条件に比較して,疑似他者条件と他者観察条件で解決率が高いことが明らかとなった。このことから,自らの遂行という点は共通であっても,観察時に動作主体をどこに帰属するかによって影響が異なることが示唆された。
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