2009 Fiscal Year Annual Research Report
キャリア教育におけるコミュニケーション能力開発の規範的正当性に関する研究
Project/Area Number |
21730643
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
小林 大祐 Keio University, 教職課程センター, 准教授 (50348819)
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Keywords | 教育学 / 教育思想 / 能力主義 / コミュニケーション |
Research Abstract |
キャリア教育を推進する施策に付随して、近年、人間のコミュニケーションに関する能力を公証する試みが現れ始めた。たとえば、厚生労働省による若年者就職基礎能力修得証明書の発行は、そのひとつだ。それらの試みの拠って立つ規範を問題にするべく、本年度は主として、最近10年程のキャリア教育関連の政策文書を収集し、その内容を精査した。この作業を通して、政策の枠組みにおけるコミュニケーション能力開発の位置づけられ方に、次のような特徴のあることが明らかになった。第一に、キャリア教育の射程が個人の勤労観や職業観に限定され、それらの主観の要素として「コミュニケーション能力」が位置づけられていること。第二に、キャリア教育においては社会や集団への適応にかかる指導が重視され、「コミユニケーション能力」の開発に関してもそうした視点から位置づけが与えられていること。第三に、「コミュニケーション能力」の開発を含むキャリア教育の普及のために、コンピテンシーベーストという発想を前提とした学習プログラムが例示されていること。また、この点については、近年の大企業における人的資源管理の時流と同調的でもあること。 施策者の弁明によれば、キャリア教育を推進したり、コミュニケーションに関する能力の公証を発行したりする施策は、若年者の失業や不安定就労といった社会問題の解決を目的としたものだ。しかし、本年度の研究を通して明白になったように、それら一連の施策は、掲げられた目的のもっともらしさとは別に、コミュニケーションに関する能力とその形成についての自明でも普遍的でもない考え方に依拠している。このことは、そうした考え方の正当性を問うという少なからず重要な課題の所在を示しており、次年度以降の研究では、そこに着手することが期される。
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