2010 Fiscal Year Annual Research Report
キャリア教育におけるコミュニケーション能力開発の規範的正当性に関する研究
Project/Area Number |
21730643
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
小林 大祐 慶應義塾大学, 教育学部, 准教授 (50348819)
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Keywords | 教育学 / 教育思想 / 能力主義 / コミュニケーション |
Research Abstract |
若年者の失業や不安定就労といった社会問題の解決を目的として、近年、次のような政策が実施されている。すなわち、若年者個人のコミュニケーションに関する能力を開発したり、その開発された能力についての公証を発行したりする施策である。先に明らかにされたところによれば、これら一連の施策は、コミュニケーションに関する能力とその形成についての自明でも普遍的でもない考え方に依拠しており、そうした考え方の正当性が問われるべきであった。本年度は、この問いの解明に用いる基礎理論を学ぶために、国内外の諸文献を調査し、その成果として以下のような知識を得た。 第一に、経済合理主義的な能力主義は、すでに日本の教育学界から批判され、その矛盾を指摘されている。また、この批判を通じて次のことが明らかになっている。すなわち、コミュニケーションに関する能力も含めて、人間の能力の本質は、その社会性と発達可能性に見出される。公教育の規範理論を構築するには、この知見を踏まえる必要がある。 第二に、ここからさらに踏み込むと次の問題が見つかるけれども、それについてはまだ十分に解き明かされていない。すなわち、能力の発達の過程で求められる学習に関して、何が求められているのかということをめぐって当事者のあいだに成立しうる合意とは、どのようなものか。とりわけ、コミュニケーションに関する能力が主題となるとき、この問題は自己言及を含む。 第三に、この踏み込んだ問題を解くには、批判的社会理論に対するフェミニズムからの批評に学んで、「必要についての解釈をめぐる政治」という考え方を当面の参考にすることができる。コミュニケーションへの十全な参加のために必要とされる能力の定義が争われる場面で、この政治に関する思想をどこまで敷衍できるか検討することが、そこからの課題である。
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Research Products
(1 results)