2011 Fiscal Year Annual Research Report
キャリア教育におけるコミュニケーション能力開発の規範的正当性に関する研究
Project/Area Number |
21730643
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
小林 大祐 熊本大学, 教育学部, 准教授 (50348819)
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Keywords | 教育学 / 教育思想 / 能力主義 / コミュニケーション |
Research Abstract |
能力の発達に関わって求められる学習の内容や方法をめぐって、学習者とその指導者とのあいだに成立する合意。この合意の正当性は何によって基礎づけられるか、あるいは、そもそも何かによって基礎づけられうるものなのか(問題A)。 キャリア教育を推進する近年の施策や、それを受けて各学校で編制された教育課程においては、コミュニケーションに関する能力の開発が当然のことのように含まれているけれども、そのことは正当だろうか。この問いに答えて正当性を主張することは、単に上記の問題Aを具体例に即して解くということではない。それは、問題Aに自己言及を含ませたうえで、それでも、それを解いて正当性を証明することができると主張することにほかならない。いったい、この自己言及をどう解き開いたらよいのか(問題B)。 本年度は、これら一組の問題(問題Aと問題B)を解き進めるために、批判的社会理論に対するフェミニズムからの批評を参考とし、その敷術を試みた。知見をまとめると以下のようである。 たとえば、国家の成員の範囲を決めるのは誰の権利に属することか。これを既に成員である者の権利だと考えると、国家による保護を欠く難民などにとっては決定的に不都合である。敷術して考えると、コミュニケーションによって物事の正当性を基礎づける試みに関しても、これと同様の困難が見られる。つまり、正当なコミュニケーションの様式を先取り的に決めてしまうと、その様式の批判を請求する他者とのあいだには、正当とされるコミュニケーションが成立し難くなる。 では、人格を賭した個人の情動的な承認要求に着目し、それを起点として社会の成り立ちを説明し直してはどうか。理知的言語行為よりも深く基底を掘り下げるという点で、確かに検討に値する。ただし、日欧いずれの研究者もこの解法に関しては評価を躊躇しており、成否を判然と見通すには研究を更に継続する必要がある。
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