2009 Fiscal Year Annual Research Report
戦後長欠対策の諸事例を手がかりとした学校の「福祉機能」の諸相と可能性の研究
Project/Area Number |
21730664
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
倉石 一郎 Tokyo University of Foreign Studies, 大学院・総合国際学研究院, 准教授 (10345316)
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Keywords | 長欠問題 / 教育福祉 / 福祉教員 / 同和教育 / visiting teacher(訪問教師) / 社会事業 / 夜間中学 |
Research Abstract |
本年度の最大の成果は、戦後日本における長欠対策の嚆矢として知られながら、その活動の全貌が同和教育の狭い文脈のみで捉えられがちであった高知県の福祉教員に関する研究成果を、単著『包摂と排除の教育学:戦後日本社会とマイノリティへの視座」(生活書院、2009.11)として刊行し世に問うことができたことである。同書のうち、第2部「包摂の<古層>:高知県の福祉教員の事例を手がかりに」(173~327頁)がその成果部分である。被差別部落を中心に顕在化した長欠問題に直面した教育サイドが、教員の職分のみならず、その活動空間そのものも拡張化することによって対処しようとしたことが明らかにされた。この拡張化は、同和対策特措法以後の時代にも引き継がれるが、福祉教員がユニークであったのは、教育実践を介さずダイレクトな回路で<社会>の変革を働きかけたことであった。 さらに本年度から、研究の対象を日本国内のみならず海外、具体的には米国に目を向け、新たな展開を図った。高知県の福祉教員登場よりおよそ30~40年早く、1900~1910年代のいわゆる「革新主義時代」の米国において、同じように長欠や怠学など学校不適応状態におちいった子どもたちを地域や家庭に訪ね歩き、学校との媒介役をはたそうとした訪問教師(visiting teacher)なるものが登場した(現在の学校ソーシャルワーカーの源流と言われる)。この訪問教師に関する資料収集のため、2009年9月から11月まで約3ヶ月間渡米し、ウィスコンシン大学マディソン校を拠点に、ニューヨーク市、ロチェスター市などの関係機関を訪問し、貴重な一次資料を収集できた。 以上の米国調査と並行して、日本における夜間中学研究の第一人者である松崎運之助先生から専門的知識の提供を受けるため、東京外国語大学にお呼びし講演会・研究交流の場を設け、東京・山谷地区における長欠児童生徒援護会の活動に関してアドバイスをいただいた。また夜間中学に関する資料の所在についてもアドバイスいただいた。 さらに、長欠対策も包含する教育福祉実践を地域レベルで実践した例として、京都市東九条地区における「希望の家」に注目し、資料収集を開始した。同施設は、カトリックを母体とした在日外国人集住地区におけるセツルメントと目されるが、米国における訪問教師がセツルメントを母体に発展したことを鑑み、戦後日本における長欠対策に欠かせない事例と考え、研究対象に加えることとした。
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