Research Abstract |
本研究では,通常学級で学ぶ聴覚障害児を対象とし,自然な口語表現の会話に触れながら柔軟性のある日本語運用力を定着させることを目的として,音声認識字幕システムを初めとした情報保障手段に関する研究を行った。 平成23年度は,iPhoneを利用したモバイル型遠隔情報保障システム(字幕入力はパソコン連係入力による)について,手書き要約筆記やパソコン要約筆記など従来型情報保障手段との比較調査を行った。調査対象は,小中学生13名を含む10~82歳とし,モバイル型遠隔情報保障システム,パソコン要約筆記,手書き要約筆記の3つの情報保障手段について,(1)SD法による評定,(2)各情報保障手段の場面別使用希望度,(3)障害認識に関するアンケート調査を行った。その結果,小中学生は成人ほど情報保障の質(情報量やタイムラグ)に対するニーズのプライオリティは高くないことが明らかになった。しかしながら,自由記述からは,聴覚活用のみでは十分に情報が得られているとは言えず,文字による情報保障支援が必要であると感じていることがうかがわれた。「手書き要約筆記やパソコン要約筆記だと書いてくれる先生や通訳者の前で発言したくない(はずかしい)のでiPhoneがよい」と回答した対象児のように,初等・中等教育段階にある聴覚障害児にとっては,周囲との対人関係への考慮が情報保障の質以上に重要であることが明らかになった。 結論として,聴覚障害児に対しては,小型で目立たず,かつ屋外の活動でも使用でき,大人の介在の必要がない支援方法から始めることで導入がスムーズになり,文字による情報保障の経験を重ねることで,学習効果を高め,かつ日本語習得にも結びついてゆくと考えられる。
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