2009 Fiscal Year Annual Research Report
1930年代における困難児・障害児保育問題と保育科学の成立に関わる諸学の動向
Project/Area Number |
21730717
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
河合 隆平 Kanazawa University, 学校教育系, 准教授 (40422654)
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Keywords | 愛育研究所 / 異常児保育 / 小溝キツ / 障害児保育 / 1930年代 / 総力戦体制 |
Research Abstract |
本年度は、1930年代における障害乳幼児・発達困難児問題の顕在化を当事者(子ども・家族)のライフコースにおける「保育時代」の誕生と仮定し、その意味を社会史的視点から検討した。具体的には、愛育研究所「異常児保育室」の実践を通して、障害児保育実践の成立過程とその意味を「異常児」とその家族、保育実践を支えた保姆の双方の視点から検討した。とりわけ、保育に携わった保姆・小溝キツの実践と思索を彼女の保育記録の読み解きを通じて明らかにし、戦時下における障害児保育実践の誕生の意味を考察するために、(1)小溝の発達観と保育観、(2)家族による「異常児」の子育てをめぐる心性、(3)時局と保育実践の間に立つ保姆としての自己意識や「異常児保育」の心性、という3つの分析視点を設定した。本研究にあたり、日本子ども家庭総合研究所図書室において、小溝キツに関する史料調査を実施した。 愛育研究所の「異常児保育」は、従来看過されてきた「幼児時代の異常児」を包摂する新たな実践として立ち上がってきたのであり、それは障害児保育実践の誕生を意味した。異常児保育は人的資源論や優生問題として言説化され、「幼児時代の異常児」の早期介入、統制として構想されていたが、実践の具体相には戦争というイデオロギーやファクターに回収されない「保育実践」の世界が認められた。「異常児」を「いかに生かすか」という「異常児保育」は、小溝に保姆として「いかに生きるか」という問いと矜持を鋭く内面化させるものであり、国家目標や時局認識も、矛盾なく子どもの発達を追求する保育として実践化されていた。 上記の研究成果は、幼児教育史学会第5回大会(2009年12月5日、法政大学)において「障害児保育実践の誕生-「異常児保育」と保姆・小溝キツ-」の題目で口頭発表し、同学会誌(幼児教育史研究)に投稿中である。
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Research Products
(2 results)