2010 Fiscal Year Annual Research Report
複素ハーディ空間の加群構造に関するトレース‐ランク不等式についての研究
Project/Area Number |
21740099
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
瀬戸 道生 島根大学, 総合理工学部, 講師 (30398953)
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Keywords | 関数解析学 / 関数論 / ハーディ空間 / 多変数作用素論 |
Research Abstract |
研究代表者が「研究目的」、「研究実施計画」の中で予想したトレース-ランク不等式の検証のためには、ある作用素(後述のΔ)を深く調べる必要を感じたため、研究の方向を当初のものから修正した。今年度はその作用素の摂動の研究に集中して取り組んだ。その内容と意義を以下に纏める。 内容:多重円板上の複素バーディ空間を、有界正則関数環を係数環とするヒルベルト加群として考えると、その部分加群それぞれにその構造を司るとされるある作用素が対応する。その作用素をここではΔと表わす。このΔは、J.Aglerによりhereditary polynomialとして、その後独立にR.Yangによりcore operator(又はdefect operatorと呼ばれることもある)としてそれぞれの観点から導入された。研究代表者は前年度までに得られた結果と先行研究とを検討し、多変数という設定では、考えている領域(スペクトル)の自己同型写像(双正則写像)でΔを摂動した作用素全体を考える必要があるだろうということに気付いた。そこで今年度はその摂動による作用素の固有値、固有関数の動き方を研究した。 意義:前年度に研究し報告したヒルベルト関数と加群のランクとの関係は、摂動されたΔの固有値、固有関数の性質に翻訳されることが判明した。さらに、これまでの研究に作用素論、摂動論の種々の概念を持ち込むことが可能となり、研究の幅が格段に広まった。これは今年度の研究成果の大きな意義である。これらの結果を論文"A perturbation theory for core operators of Hilbert-Schmidt submodules"にまとめ、作用素論の専門誌である"Integral Equations and Operator Theory"に投稿し、採録が決定した。さらに強調したい重要な点として、上記の論文で与えた方法は、多重円板上のHardy空間だけではなく、良い再生核と良い自己同型写像が存在する再生核ヒルベルト空間(例:単位球上のHardy空間、多重円板、単位球上のBergman空間、Drury-Arveson空間)であれば議論することができることである。ここに一般論を展開できる可能性があり、現在研究を継続中である。
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