Research Abstract |
本年度では,エネルギー汎関数の独立変数(状態分布関数)がベクトル値のケースとスカラー値のケースの両万を考え,それぞれにおいて以下の研究成果を報告した. (A) ベクトル値のケースでの成果 ベクトル値関数を変数とする全変動汎関数によるエネルギーに注目し,制約条件が付いた状況での固有値型問題について考察した.結論として,設定がベクトル値とスカラー値のケースではエネルギーの変分構造や再現される自由境界に以下のような共通点・相違点がある事を示した. (共通点)・固有値型問題の解によって再現される自由境界の幾何学的構造は,スカラー値の設定でもベクトル値の設定でも基本構造は同様である. ・自由境界は,状態分布関数の値の符号が反転する(方向が逆になる)所に現れやすい. (相違点)変分構造の解析において,スカラー値の設定での証明法の一部が,ベクトル値の設定では通用しない.これはベクトルが複数の成分を持つ所に起因している. (B) スカラー値のケースでの成果 スカラー値関数を変数とする全変動汎関数に対し,異方性の効果を取り入れるなどの様々な設定を取り入れ,設定毎に生成されるAllen-Cahn型方程式について,以下2つの成果を得た. ・どの設定においても「比較性原理」などの力学系の支配法則は,基本的に同様な形で成立する事を明らかにした. ・各設定において,対応するAllen-Cahn方程式が再現する解構造(自由境界)に関し,詳細な考察を与えた.言い方を変えると,例えばある設定を別の設定の近似とみる場合,近似の方法による再現状況の特性を,幾何学的な観点から明示した. 今後は,上記(B)の議論をベクトル値の設定へ拡張することによって,時間発展を含めた複雑な自由境界の解析に向けて,研究を継続したい.
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