2011 Fiscal Year Annual Research Report
重力理論検証の視点での天文単位の永年変化問題の究明
Project/Area Number |
21740193
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
荒木田 英禎 岩手大学, 教育学部, 特命研究科准教授 (80413970)
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Keywords | 一天文学 / 理論天文学 / 宇宙物理学 / 数理科学 |
Research Abstract |
天文単位の1世紀あたり約15mの永年的(時間的)変化の原因を重力理論の検証という視点から検証している。近年、天文単位の永年的変化やパイオニア探査機の異常加速問題等、一般相対論の枠組みでさえ説明出来ない位置天文学的な問題が浮上している。一方、宇宙論におけるダーク・エネルギーやダーク・マター問題は重力の性質と深く関わっているようにも見える。したがって、様々な物理・天文観測の中でもっとも高精度を誇る太陽系内の位置天文観測データを用いて重力理論を検証する事が重要と思われる。 本年度の研究では、天文単位とその時間変化量を決定する上で重要な役割を果たす光の伝播を記述する光差方程式に対して、時間にあらわに依存する効果である宇宙膨張効果を、Syngeのworld functionに基づくTime transfer functionを用いて解の時間依存性をしっかり保持した形で計算・定式化することに成功し、宇宙膨張によって引き起こされる天文単位の増加量を見積もることが可能になった。その結果、宇宙膨張によって生じる時間変化量は観測された実際の天文単位の永年変化量に比べて9桁小さい効果でしかないことを明らかにした。さらに近年、宇宙の加速膨張をダーク・エネルギーの導入なしに説明する取り組みとして宇宙の非一様性に基づく議論も活発になっている。これまで太陽系のような局所的に重力で束縛された系に対して一様・等方モデルの寄与は議論されてきたが、非一様性がどのように影響するかの議論はなされていなかった。そこで、局所重力束縛系に宇宙の非一様性がどのように寄与するかをLemaitre-Tolman-Bondi宇宙モデルを用いて評価した。その結果、一様・等方モデルから導かれる既知の効果に加え、LTBモデルによる補正効果が現れ、原理的には観測による制限が可能であることを示した。しかし、天文単位の永年的変化を考える場合、この補正は極めて小さな効果である事が分かった。さらに、宇宙定数の検証に関して、その光の運動への寄与を考察し、Λが測地線方程式と光子軌道の双方に現れる事、しかしΛの効果はインパクトパラメータの定義に完全に取り込まれる事、そして宇宙論的レンズ方程式へのΛの寄与はangular diameter distanceに完全に吸収される事を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はデータ解析プログラムの構築を進める作業と平行して、特に理論的な側面での研究を順調に進めることができたと考えている。その結果として本研究に関連する査読つき原著論文3本の出版および受理(掲載決定)を達成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度(H24年度)の推進計画としては、まず軌道解析プログラムを完成させ、実際にデータ解析を行い、天文単位の永年変化量を独自算出することを目指す。その際、当初2011年に水星周回軌道に投入されたアメリカのMESSENGER探査機の軌道追跡データを用いることを計画していたが、このデータの提供に関して交渉中である。 また、理論的な側面としては、スカラー・テンソル理論やテンソル・ベクトル・スカラー理論、f(R,T)重力理論に基づく光の伝播モデルにまで踏み込んで議論を行い、重力理論の検証という色合いを強調していきたいと考ええている。そして、それらの結果をデータ解析プログラムに反映してデータ解析を行う予定である。
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