2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21740247
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鴻池 貴子 東京大学, 物性研究所, 助教 (70447316)
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Keywords | 有機伝導体 / ディラック電子系 / 圧力 / 比熱 |
Research Abstract |
本研究ではバルク結晶でありながら圧力下で単一原子層のグラフェンと同様の線形分散を持ち,質量ゼロのディラック電子系が実現していることが最近分かった有機導体α-(BEDT-TTF)_2I_3を用いて圧力下比熱測定を行い,ディラック電子系の示す特異な熱物性に関する研究を行う.本研究はグラフェンでは非常に測定困難で現在までにまったく報告のないディラック電子系の比熱測定を可能にするもので,ディラック電子系の示す熱力学的特性を初めての実験的に解明しようとするものである. 研究初年度である平成21年度はクランプ型圧力セルを用いてまず本研究室での圧力下電気抵抗測定系を立ち上げた.またac法を用いて参照試料(インジウム)の比熱測定を行い,圧力下での超伝導転移における比熱異常を捉えることに成功した. 平成22年度以降はこれらの手法をα-(BEDT-TTF)_2I_3に適応し,前年度までに確立した圧力下比熱測定法により,低圧領域では電荷秩序による明確な比熱異常が観測され,加圧にともなって低温側にシフトする様子が確認された.またディラック電子系が実現する高圧下の測定では,温度依存性がC∝T^<1.8>となることが分かった.これは線形分散を仮定した場合に期待される比熱の温度依存性(∝T^2)と良く一致している.また面垂直磁場下では,比熱は磁場の増加にともなって初めは増加し,その後減少に転じる様子が観測された.低温領域で求めた電子比熱係数γ値に関しても同様の振る舞いが観測された.これらの結果は報告されている磁気抵抗の結果と非常に良く対応しており,フェルミエネルギーにおけるディラック電子系特有のゼロモード(N=0のランダウ準位)の状態密度が磁場とともに初めは増加し,スピン分離の効果が大きくなると減少することを反映していることを強く示唆している.以上の結果は本物質でのディラック電子系の存在を示す初めての熱力学的証拠であるとともに,ディラック電子系の比熱の振る舞いを実験的に示した初めての例である.
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Research Products
(6 results)