2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21740276
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
神原 浩 信州大学, 教育学部, 助教 (00313198)
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Keywords | スピン3重項超伝導 / カイラルp波超伝導 / Sr_2RuO_4 / トンネルスペクトル / ブレークジャンクション |
Research Abstract |
本研究では,スピン3重項超伝導体(Sr_2RuO_4)に微細加工を施した試料で輸送特性測定を行うことで,スピン3重項超伝導特有の内部自由度を反映した新奇な量子輸送現象の検出を目的とする。昨年度までに,集束イオンビーム加工により微細なSr_2RuO_4の弱接合領域を削り出し,特異な電流-電圧特性が現れることを報告してきた。今年度,その微細接合領域部分を熱的および電気的なショックを加えることで破壊し,ブレークジャンクションによるトンネル接合を形成することに成功した。トンネルスペクトルは超伝導の内部位相に非常に敏感な応答を示すことが知られているが,過去に行われた他グループのトンネル接合の実験は,Sr_2RuO_4と他の金属間に形成された接合の研究のみであった。今回,我々が作製に成功したものは,Sr_2RuO_4とSr_2RuO_4のトンネル接合であり,初めての研究となる。これは微細加工技術を適用することで初めて可能になったと考えられる。Sr_2RuO_4のブレークジャンクションにおける電流-電圧特性測定を行った結果,T_c以下で温度の低下とともに増大するブロードなゼロエネルギーピークを明瞭に観測した。また,エネルギーギャップに相当するバイアス電圧で特徴的なディップも明瞭に観測された。このスペクトルは,これまでに知られているs波やd波超伝導体のトンネルスペクトルの形状とは異なる。そこで,Sr_2RuO_4の超伝導対称性として最も有力と考えられているスピン3重項カイラルp波を仮定し,カイラルp波/絶縁体/常伝導金属(N/I/S),およびカイラルp波/絶縁体/カイラルp波(S/I/S)接合でトンネルスペクトルの理論計算を行った結果,N/I/S接合モデルで非常によく実験結果を再現できることが判明した。S/I/S接合よりもN/I/S接合モデルでうまくフィットできる理由の解明は今後の課題であるが,トンネルスペクトルの結果はSr_2RuO_4がカイラルp波対称性をもつことを支持する有力な実験結果の一つになると考えられる。
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Research Products
(4 results)