Research Abstract |
南半球では連続的な層序にもとづいた海生生物相の変遷(進化や絶滅,多様性変動など)はほとんど明らかになっておらず,地球環境変動との相互関係もよく理解されていない.そこで本研究では,白亜紀当時には南半球に位置していたインド南部をおもな研究対象地域として,海生軟体動物相の変遷史(進化や絶滅,多様性変動)を明らかにし,地球環境変動との関連を理解することを研究目的としている.本年度は,昨年度のインド南部アリヤルール地域での野外調査で採取した,白亜紀中期から新生代第三紀初期までの地層から産出した軟体動物化石の種同定を行い,それぞれの地層での多様性の解析を進めた.本年度までに解析した成果によって,白亜紀のオウムガイ類化石の孵化サイズは直径9~35mmほどであったことを明らかにし,白亜紀末の大量絶滅事変前後でオウムガイ類の孵化サイズには大きな変化がなかったことを明らかにした(Wani et al., in press).白亜紀末の大量絶滅事変において,オウムガイ類が生き延びたことと,孵化サイズの小さい(直径0.5~2.6mm)アンモナイト類が絶滅したことから,孵化サイズの小さかったことが絶滅に関連していた可能性が示唆された. また,白亜紀のオウムガイ類で認められた殻形態の特徴が温暖期に特有のものであるかどうかを検証するため,寒冷期であった石炭紀のオウムガイ化石での解析を進めた.その結果,オウムガイ化石にみられる孵化や成熟を示す特徴は,温暖期・寒冷期を通じて共通であったことが明らかになった(Wani and Mapes, 2010). 上記の成果に加え,白亜紀後期の北海道および新生代鮮新世の東南アジアにおける地球環境変動と生物相の変遷に関する共同研究においていくつかの新知見が認められたので,学術雑誌において発表した(Majima et al., 2010 ; Watanabe et al., 2011 ; Tajika and Wani, in press).
|