Research Abstract |
本研究課題の最終年度として,次のような成果を挙げた.数ある三葉虫の中でも個眼が細部まで保存されているCyclopyge属およびErbenochile属について,20ミクロンの精度でクリーニングされた複眼の標本を入手した. これらの標本をCTスキャンにかけ,ボリュームレンダリングを行い,パソコン上で3D復元を行った.その後,Cyclopygeについては,左の複眼について,個々の個眼の中心座標をMolcer plusを用いて読み取り,また,それぞれの個眼の境界3点の3次元座標も読み取った.こうして読み取った空間上の3点によって,個眼の平面が定義され,平面の法線ベクトルをVisual Basicで作成したプログラムを用いて求めた.法線ベクトルの始点を個眼の中心に移動させることで,個々の個眼の光軸をあらわすことができる.こうして約1000個の個眼について光軸の球面投影を行った.その結果,Cyclopyge sp.は全面から側面にかけて約120度ときわめて限られた視野を持つことがわかった.球面上の光軸の密度をカウントしたところ,腹側のほうがより高い個眼密度を持つことが分かった.このことは,研究に用いたCyclopyge sp.が腹側を水面の方向にむけて,仰向けで泳いでいたということを示唆する.このCyclopyge sp.の複眼はホロクローラル・アイと呼ばれる三葉虫の中でメジャーなタイプの眼である. 一方で,スキソクローラル・アイは三葉虫の中でもデボン紀に栄えたファコピナ亜目のみが持つ非常に特有な眼である.またスキソクローラル・アイはカンブリア紀前期に現れたホロクローラル・アイから幼形成熟によって派生したと考えられている眼である.ホロクローラル・アイを持つErbenochile sp.についても同様にCTスキャンをおこなって,約20ミクロンの精度で,断層面を得ることができた.この断層面1枚1枚から,個々の個眼レンズは両凸レンズであることがわかった.断層画像集をもちいて,個々のレンズの外側と内側の最も突出している座標をImage Jを用いて読み取り,個々のレンズの光軸をより正確に求めることができた.その成果については現在論文として投稿・作成中である.
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