2011 Fiscal Year Annual Research Report
最終氷期最盛期の化石サンゴを用いた熱帯海域の海水温・塩分の季節変動復元
Project/Area Number |
21740387
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井上 麻夕里 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (20451891)
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Keywords | 最終氷期最盛期 / 化石サンゴ / 気候変動 / 熱帯域 / 微量元素 |
Research Abstract |
現在、そしてこれからの気候変動を予測する上で重要な、放射強制力に対する気候システムの応答を解明する鍵となる時代の一つである最終氷期最盛期(LGM)における熱帯海域の海水温、塩分の季節変動を解明することは重要であり、本研究では化石サンゴを用いてLGMの季節変動を明らかにすることを目的としている。試料は南太平洋のバヌアツから採取された化石サンゴであり、ウラン系列年代測定法により約22,000年前の年代を有することが分かっている。本研究では、当時の気候を復元するために、海水温の指標として知られているサンゴ骨格中のストロンチウム・カルシウム比(Sr/Ca比)とSr/Ca比と組み合わせて測定することで塩分の間接指標となり得る酸素同位体比(δ^<18>O)の測定を行った。共に分析の時間分解能は約1ヶ月であった。昨年度までの研究成果により、変質を受けていない良質なサンゴ骨格が保存されていることが分かり、そのSr/Ca比変動より、LGMでは海水温に約5℃の季節性があったことが示唆され、現在(~3℃)に比べ海水温の季節変動が大きかったこと、特にそれが冬の海水温低下に起因していたことが示された。本年度はサンゴ骨格より得られたδ^<18>OとSr/Ca比およびこれまでに報告されているデータを比較検討することで、LGMの熱帯域海洋における塩分の変動について考察を行った。その結果、LGMにおける表層塩分の季節変動は現在とほとんど変わらず、全体的には現在に比べわずか(~0.5)に塩分が低かったことが示唆された。バヌアツは西太平洋暖水海(WPWP)の南端に位置しており、過去のWPWP変動を理解する上でも重要な地域と考えられるが、今回の結果はそのような場所におけるLGMでの海水温および塩分の変動を明らかにしたものである。この結果は今後の気候変動を予測する上で欠かせない気候モデルに対して必要な束縛条件を与えるものとなり、特に季節性の復元ができたことは貴重なデータとなるであろう。
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