2009 Fiscal Year Annual Research Report
弱い分子間力を正確に記述する第一原理分子動力学法の開発
Project/Area Number |
21750025
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
佐藤 健 Waseda University, 早稲田大学・理工学術院, 講師 (30507091)
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Keywords | 分散力 / 密度汎関数理論 / 応答関数 / 分極率 / 長距離補正法 |
Research Abstract |
水素結合やvan der Waals結合は,DNAやタンパク質の高次構造を支配している.また機能性タンパク質は,これらの弱い分子間力を利用して分子認識を実現している.生化学やナノマテリアルの分野において,分子間力が果たす役割は極めて大きい、状の電子状態理論では,弱い分子間力の取り扱いに大きな困難が伴う.互いに相容れない計算精度と計算コストに課せられる要請が原因である。本研究の目的は,この困難を克服し,弱い分子間力による構造揺らぎと強い化学結合の組み替えがカップルする,生体分子やナノマテリアルの物質変換過程をシミュレートするための,高速かつ高精度な計算手法を開発することである. 密度汎関数理論(DFT)は現在最も良く用いられている分子理論であり,大規模系の電子状態計算において多くの場合優れたコストパフォーマンスを示す.しかし弱い分子間相互作用の記述が著しく悪い.それは長距離電子相関である分散力の記述が困難なためである.経験的な分散力補正がよく行われるが,新しい系への適用は困難である.このような背景を踏まえ,私は局所応答(Local Response)近似[Phys.Rev.Lett.76,1780(1996)]に基づいて分散力(Dispersion)を非経験的に算出するLRD法を考案し,弱い相互作用の高精度かっ効率的な計算を可能にした.LRD法は,分子中の原子間分散力係数を基底状態電子密度の汎関数として与える.任意の構造に適用可能であり,原子半径や原子分極率などの経験的物理量を一切必要としない.小さな計算コストで,分散力エネルギーの第一原理計算を可能とする.これを希ガス原子対やベンゼン二量体,核酸塩基対などの相互作用に適用し,相互作用エネルギーを高精度に再現することを確認した.
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