Research Abstract |
本研究では,骨リモデリングにより達成される骨の力学的適応を担う骨系細胞の活動に対し,細胞周囲の力学環境変化のセンシング機構および,細胞内のミクロ構造変化と力学因子との関連を明らかにするため,実験的アプローチによる検討を行った.これまでに,マイクロパターニング技術を用い,細胞の焦点接着斑分布の制御下で骨芽細胞様細胞の一時脱重合後の再重合(再形成)過程を観察した結果,焦点接着斑分布の制御の有無で定性的にアクチン細胞骨格構造の形成速度および形成量が異なることが示された.これらの観察結果をふまえ,本研究では,まず,骨芽細胞様細胞のアクチン細胞骨格構造に対し生化学的に脱重合および再重合を起こさせ,それぞれの過程における細胞骨格構造の変化を焦点接着斑分布制御の有無で経時的に観察・比較した.また,アクチン細胞骨格領域におけるアクチンの輝度分布と束化したアクチン繊維構造の解析に基づき,それらの細胞骨格構造変化の定量的評価を試みた.次に,細胞骨格構造が十分形成された細胞に対し細胞外基質の変形による圧縮ひずみを負荷し,アクチンストレスファイバーの張力を解放して脱重合を起こさせ,細胞骨格構造の変化を焦点接着斑分布の制御の有無で比較・評価した.これらの実験の結果,焦点接着斑分布を制御した細胞骨格構造の主要なアクチンストレスファイバーは,制御のない場合に比べ,脱重合過程時に維持されやすく,これに起因して,再重合時の見かけの細胞骨格再形成過程が早く進行することが示唆された.以上の結果から,細胞骨格構造を形成するアクチンストレスファイバーの束化の密度と内部に作用する張力に変化が生じ,細胞骨格構造全体の構造変化に影響を与えることが示唆された.これらは,焦点接着斑分布の変化が,細胞周囲の力学的環境変化のセンサーメカニズムとして重要な役割を果たしていることを新たに示唆するものである.
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