Research Abstract |
損傷によって構造物の振動特性が変化することは古くから知られており,振動特性の変化を利用した損傷検出手法に関する研究は数多い.微動計測のような主に数~数十ヘルツの低い振動特性を扱う手法は,小さな損傷に対する感度が低いため,亀裂レベルの小さな損傷の検出には利用できない.一方,超音波探傷検査のような微小損傷に対して感度の高いメガヘルツの振動特性を扱う手法は,一度に診断できるエリアがクラック近傍などの非常に狭い領域であるので,構造物全体の健全度を即座に診断することは難しい.本研究では,超音波ほど高くはないが微動よりは高い振動数,具体的には数キロヘルツの高振動数で構造物を起振することによって,亀裂レベルの小さな損傷の検出と計測の効率化を同時に実現する損傷検出手法を開発したいと考えている. H21年度は,高振動数で起振可能なアクチュエータを作成し,鋼板を対象とした起振実験によって,鋼板に入れた切り欠けによって応答加速度が変化することを確認した. H22年度は,より多くのケースの実験的検討を行った.鋼板については,切り欠けの位置と切り欠けの方向を変えた試験体を検討の対象とした.数値解析も実施し,損傷の有無の検出だけでなく損傷位置の推定する方法についても検討を行った.さらに,RC構造物のひび割れ発生を検知できるかどうかの検討も行った.具体的には,鉄筋コンクリート柱の静的水平載荷試験によって,ひび割れ発生時,鉄筋の降伏時,ポストピーク時等,様々なレベルの損傷を生じさせたものを対象とした.アクチュエータによって起振した結果,高振動数領域の応答が損傷によって変化し,アクチュエータを用いてひび割れ発生による振動特性の変化を検知できることを確認した. H23年度は,高振動数領域に適した数値解析手法について検討を行った.具体的には,スペクトル要素法に基づく損傷同定手法を提案した.高振動数領域を扱う場合,従来の変位を多項式で補間する有限要素法では要素分割を多くとらなければならなくなり,計算量が膨大になるという問題が生じる.一方,スペクトル要素法では,変位を振動数の関数で補間するため,要素分割を多くとる必要がなく高振動数で起振する場合に適しているといえる.まず,有限要素法とスペクトル要素法の比較解析を行い,高振動数起振におけるスペクトル要素法の優位性を示し,さらに,スペクトル要素法により,構造物の高振動数領域の振動特性が損傷によってどのように変化するかを明らかにしたうえで,起振・計測方法を様々に変え損傷同定解析を行い,部材単位での局所損傷同定における高振動数起振の優位性を示すことができた.
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