Research Abstract |
今年度は,(1)多層偏心建築物の縮小模型を設計・製作と入力方向をパラメータとした振動実験を実施,ならびに(2)せん断破壊による耐力低下を伴う偏心建築物の耐震性能評価,の2つを実施した。 まず(1)に関しては,昨年度の単層縮小模型の製作で得られた知見に基づき,アルミニウム合金を用いて2層・3層でL字型の平面を有しセットバックした軸偏心試験体を作成し,加振方向をパラメータとした振動実験を実施した。ここで,振動実験でのポイントは,試験体を円盤上に固定し,円盤の向きを変える事で加振方向を変化させるようにした点である。実験の結果,セットバックを有する偏心骨組の応答性状は加振方向の影響を強く受け,ねじれ応答が顕著となる加振方向と非常に小さくなる方向が存在する事,加えてねじれ応答が顕著となる方向が,1次モードの振動方向と近い事がわかった。この結果は,昨年度の単層試験体のものと符合するものである。現在,データの詳細分析中である。 一方,(2)に関しては,研究代表者が既に提案している,部材レベルの多層立体骨組による変位モード強制型静的漸増載荷解析法を用いて,せん断破壊型部材と曲げ破壊型部材が混在して,L字型の平面を有する4層骨組の非線形解析を実施した。次いで,昨年度に本研究で開発した,任意方向からの水平1成分入力に対する最大応答の上限値を推定する手法を適用して,地震動の入力方向を考慮して,その建築物が耐えうる限界地震動の大きさ(応答スペクトルの周期特性が一意的に与えられた場合に,対象建築物が終局点まで応答するときの地震動の入力倍率の最小値)の推定を行った。検討の結果,耐力低下が伴う既存建築物においても,本手法で限界地震動の大きさを評価できる可能性がある事がわかった(2011年4月現在,(2)の成果は「コンクリート工学年次論文集」に投稿中である)。
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