Research Abstract |
建築家による思想の構造的解明を試みる本研究において,建築家自身が自らの思索を回顧し,その軌跡を総括した図式とは,重要な意味をもち,その解読が必須であるといえる。本研究に関わる研究計画調書において提示したように(研究目的(2)-1),アルド・ファン・アイクは晩年に開催されたアテネでの回顧展において,これまで表明してきた思索の諸図式をひとつの図式へと統合している。 本年度はこの統合の意味を問うことをとおして,かれの思索の全体像を確認すること,また,かれが晩年に至りえた思索のありようを明らかにすること,この2点を主題として研究を行った。 具体的には,アテネ回顧展の標題("AX-BAX")の着想の契機となり,ファン・アイク自身が強い関心をもったとされるギリシア人建築家,ディミトリウス・ピキオニスの作品への訪問,ファン・アイクのアテネでの行程の追跡などにより,研究のための基礎資料の収集を行うとともに,同時代(1980年代)に発表されたファン・アイクの言説分析を行い,かれの晩年における思索にひとつの転回(「内部」(60年代)から「開け」(80年代)への問いの反転)を見出し,このことと先述の回顧展における図式の統合との相関を確認するうえでの,ひとつの手がかりを得た。 また,文献資料の収集として,研究計画調書において方法として提示した文献(研究計画・方法(1)),すなわちファン・アイクが編集に参加し,かれの積極的な思想表明の媒体となった建築雑誌FORUMの通巻収集を進め,現在,かれの編集委員時代における巻号については,ほぼ収集が完了している。 これらの資料には,前述した晩年の図式の統合へといたる前史を考察する上で,豊富な情報が含まれているものと予想される。現在,資料の分析が進行中である。
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