Research Abstract |
建築家による思想の構造的解明を試みる本研究において,建築家が参照した,あるいは自身が制作した作品についての調査は,背景的知見として不可欠である。本年度は建築家の思想解明に合わせて以下の作品を訪問,調査し(2011.3.6~3.17),次年の最終年度における最終成果を得るための予備的考察を行った。[オランダ]ナーヘレ地区のポルダー計画,および小学校計画(1956),フィッサー邸(1969)の周辺敷地調査,ヨハネス・ダウカー設計によるサナトリウム(1931)ほか。[クロアチア]CIAM第10回開催地ドゥブロブニクの視察および開催会場の特定など。 上記の調査から,現在着手中である以下の思想研究における基礎的知見が得られた。すなわち,前年度での成果として提示したとおり,アルド・ファン・アイクは80年代に,かつて60年代に提示した自らの思索からの転回を試みるのであるが,その契機のひとつである鍵概念「開け」「透明性」への言及にあたり,先駆的,萌芽的事例として上記のサナトリウムやナーヘレ地区の小学校をそれぞれ挙げている。これらの事例への訪問によって,ファン・アイクのいう「開け」「透明性」が,60年代における建築の物質性,身体性への関心から,空間の非物質性(色彩表現の積極的採用:ナーヘレの小学校)や脱主体性(実存的な内部から超越的な外部への位相転換:サナトリウム)への傾斜によって着想されたものであることを確認することができた。 また,デルフト工科大学図書館やオランダ建築家協会アーカイブへの資料調査をとおして,晩年のファン・アイクが強い関心をもったギリシア人建築家,ディミトリウス・ピキオニスについての基礎資料をはじめ,未収集であったファン・アイク関連の資料収集を本年度も継続的に行なっており,現在,これらの分析作業に着手中である。
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