2010 Fiscal Year Annual Research Report
有機相の変形特性に着目したアワビ貝殻の強度・靭性両立機構の解明
Project/Area Number |
21760542
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
垣澤 英樹 独立行政法人物質・材料研究機構, ハイブリッド材料センター, 主任研究員 (30354137)
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Keywords | 貝殻真珠層 / 高靭化機構 / 有機相 |
Research Abstract |
前年度決定した加熱条件(アラゴナイトからカルサイトへの相変態温度以下で、CO2雰囲気下で加熱)を用い有機相の効果を消失させた真珠層の引張試験および三点曲げ試験を行った。引張試験の結果、有機相が存在する真珠層の破壊がアラゴナイトプレートのプルアウトによって生じたのに対して、加熱処理を施した真珠層は試験の初期段階でプレート界面の剥離が生じ試験片が薄片状に粉砕され、引張荷重を測定することができなかった。プレートのプルアウト時の界面のせん断滑り抵抗を見積もった結果、せん断すべり応力はプルアウト開始時から破壊までに24MPaから40MPaまで増加し、界面の有機相がプレートのすべり挙動を制御していると考えられた。 曲げ試験では、有機相の存在する真珠層の破壊は引張表面から厚さ方向へ進行したのに対し、加熱した真珠層は試験片の厚さ方向の中央部で剥離し、破壊が長手方向に進行した。試験後の破面観察の結果、有機相のある真珠層はプレートのプルアウトが確認され試験片の引張側表面から引張破壊が生じた。一方、加熱した真珠層はプレート間でせん断破壊が生じたことがわかった。以上の結果から、有機相の状態が変化すると曲げ負荷時の破壊モードが変化することがわかった。加熱した真珠層のプレート界面のせん断強度は得られた最大荷重から11MPaと求められ、有機相のある真珠層の引張試験時の界面強度(24MPa)より著しく低くなった。加熱した真珠層のプレート表面に垂直方向の引張試験を行ったところ、プレート間の引張強度が0.62MPaと求められた。有機相は引張方向のプレート間の引張強度にも大きく寄与することが明らかになった。 このことから、界面の有機相は界面のせん断滑り挙動を制御するだけでなく、界面の接着する役目を担っていることがわかった。積層構造の利点を発揮できるプルアウト破壊が生じるためには界面有機相の存在が不可欠であることが明らかになった。
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