Research Abstract |
研究代表者は,血管内ステント留置後の再狭窄の予防のため,抗血栓性の優れたフッ素添加非晶質炭素薄膜(F-DLC)を開発した.本研究の目的は,薬剤を患部で的確に機能させる「ドラッグデリバリー」の概念とナノ薄膜被覆技術を,ナノレベルの構造制御により融合させ,新たな機能性ナノ薄膜を開発することである.平成21年度には,F-DLCナノ薄膜を医療材料に成膜し,生体適合性を明らかにするために,各試料上に血管内皮細胞播種し,一定期間培養後の試料上での静着細胞数の定量,形態観察を行った.観察は光学顕微鏡,電子顕微鏡,蛍光顕微鏡を用いた. 以下,(ア)~(カ)を供試材料とし (ア)SUS-316L(既存のステント材料),(イ)DLC,(ウ)F-DLC(20),(エ)F-DLC(40),(オ)F-DLC(60) (カ)ポジティブコントロール(ディッシュ)・前述(ウ)~(オ)のF-DLCの括弧内数値は,膜中のフッ素量の差異を示し,数値の増加はフッ素量の増加に一致する.その結果,フッ素添加量増加と,静着細胞数の減少には相関が認められた.しかし,顕微鏡下ではフッ素量を最大にしたF-DLC(60)上の付着細胞でも,糸状仮足,葉状仮足が十分に発達しているものが観察され,また,細胞が付着していない部分では細胞の剥離痕も観察された.このことから,F-DLC(60)においても,静的環境下で細胞は伸展・増殖するが,接着が弱く,外的刺激により剥離することが推察される.また,WST-8 assayにおいて,F-DLCは細胞毒性を有さないことが示された.これにより,F-DLC薄膜は,強力な抗血栓性と血管内皮細胞適合性を持ち,ステントコーティングに適していることが示唆された.
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