Research Abstract |
高度な社会性を獲得したシロアリのコロニーにおいて,繁殖を担うのは巣を創設した一次生殖虫であるが,それらが死亡したり繁殖力が低下した場合には,未成熟個体から精巣や卵巣だけを大きく発達させた個体(二次生殖虫)が分化することが多くの種で知られる。繁殖上の分業を維持することは,シロアリの社会性を維持する上で極めて重要であるので,二次生殖虫の分化は厳密に調整されているはずであるが,一次生殖虫の存在下では出現しないこと以外ほとんど分かっていないのが現状である。そこで本研究は,シロアリにおける繁殖上の分業の維持メカニズムを明らかにすることを目的とし,形態や行動が大きく変化する補充生殖虫の分化に注目して,生態学的・形態学的・分子生物学的アプローチから解析した。本年度はまずヤマトシロアリを用い,昨年度に確立された二次生殖虫の分化方法を利用して,(1)ビテロジェニン(卵黄前駆タンパク質)遺伝子発現量の変動,および(2)後腸の退縮と共生原生動物量の変動を解析し,二次生殖虫の分化に伴う個体変化を整理した。さらに,他種を用いて,(3)同様の方法による二次生殖虫の分化誘導を試みた。(1)および(2)では,脱皮直後にビテロジェニン遺伝子発現量が急激に増大し,後腸サイズの縮小と原生動物量の低下が起こることが示された。その後の卵巣の顕著な発達を促す生理的変化が生じている可能性が示唆される。(3)では,ネバダオオシロアリにおいて,母巣からの隔離だけでなく,幼若ホルモン(JH)の投与でも,生殖腺を発達させた個体を幼虫段階から人為的に誘導できる可能性が示された。本種では,兵隊様の形態をもつ二次生殖虫の存在が知られるが,外部形態がそれに類似した個体の誘導も可能であることも示された。以上の結果の一部は,原著論文にまとめると同時に,第16回国際社会性昆虫学会議を含む国内外の複数の学会で成果を発表した。
|