Research Abstract |
離島を含む日本各地および台湾のサンプルに基づき,シカおよびシカハジラミの系統解析を行った.解析にはミトコンドリアCOIの相同な領域を両種に用い,宿主-寄生者間の分子進化傾向の違いも比較出来るよう実験をデザインした.その結果,シカは配列が2-2.5%異なる台湾,北日本,南日本の3系統に分かれるのに対し,シラミは配列が12%異なる台湾+九州南部とそれ以外の系統に大きく分かれることが分かった.後者はさらに配列が2%程度異なる2系統に分かれたが,それらには地理的な構造は見られなかった. 得られた系統関係に基づき,共分化解析を行った.分岐パターンの比較からは,両者の間に有意な共分化関係が検出されたものの,遺伝的距離の比較から,分岐パターンの一致のいくつかは,共分化関係によるものではないことが示された.それらを除外した結果,偶然の一致を超えるような有意な共種分化関係は見られないことが示された.過去の全ての研究例で,哺乳類とシラミの間には強い共種分化関係が認められており,今回の結果は興味深い.両者の分化パターンの不一致の原因として,雄ジカによるシラミの分散が考えられた.シカの集団解析には母性遺伝するミトコンドリアが用いられてきた一方,集団解析に適した核のマーカーは得られておらず,雄ジカの集団構造は未解明であった.シラミの集団構造は,シカの雄の集団構造解明の一助になる可能性も示された. フーリエ記述子を用いて,シラミの頭部形態の定量化を行った.その結果,非機能的な部分に大きな変異が生じていることが示された.また,頭部形態の集団間のクラスター解析を行った結果は,系統解析の結果と非常に良く一致していた. 上記の他,シラミの分子進化に関し,塩基置換速度がシカの約4.8倍早いこと,ミトコンドリアゲノムが単一の環状構造を取らず,複数の微小環から成ることが明らかとなった.
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