Research Abstract |
共生生物として知られる地衣類の菌と藻の組合せは,全体の数%程度しか調べられておらず,菌と藻の共生関係や系統進化については,ほとんどのことが分かっていない.本研究では,極域から熱帯まで分布し,多様な属内分類群が含まれるサルオガセ属を材料として,菌と藻の分子系統樹を比較することによって,属内分類群および種ごとの共生関係の特性について明らかにし,本属における共生藻に関わる形質の分類学的再評価および共生関係の進化について考察することを目的とする. 平成22年度は,サルオガセ属の標本を日本産23点,台湾産99点を採集し,さらに研究協力者採集による北米産標本9点について,菌と藻のITSrDNA領域の塩基配列を決定した.これらのデータを平成21年度までに得たITS rDNA領域と合わせて分子系統解析を行ったところ,菌の分子系統樹では3亜属2節のクレードが支持され,それらの共生藻の系統樹は,菌の属内分類群にほぼ対応してまとまったクレードを形成することが支持された。サルオガセ属の同種内の菌および藻に地理的な差が見られるのかを調べるために,北米のサルオガセ属の集団についても調査を行った。北米産Usnea strigosaに対応する藻類クレードには,日本に産する地衣類(Parmotrema tinctorum)の共生藻も含まれており,共生藻の分布が地理的に異なっているわけでないことが明らかになった。地衣類における菌と藻の関係は,地理的な違いによるものではなく,むしろ生育環境によって共生藻の分布が異なっており,それらを同じ生育環境内の様々な地衣化菌類が利用している可能性が考えられた。平成23年度は,台湾産サンプルについても解析を進め,本仮説を検証していく予定である。
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