2010 Fiscal Year Annual Research Report
中性子散乱とシミュレーションによる蛋白質動力学に対する水和とキャビティ効果の研究
Project/Area Number |
21770178
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
中川 洋 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究職 (20379598)
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Keywords | 生物物理 / 蛋白質 / 中性子 / シミュレーション / ダイナミクス |
Research Abstract |
蛋白質の構造揺らぎは、安定性や機能発現に関わる。蛋白質表面の水和構造は、蛋白質の揺らぎに著しい影響を与えることが知られている。また蛋白質の構造にはキャビティと呼ばれる空間的な隙間が存在して、分子パッキングの揺らぎの場となっている。蛋白質の揺らぎは多数の原子が協調的に動くため、水和水やキャビティの構造変化の影響は蛋白質全体に及ぶ。そこで本研究では、蛋白質を取り巻く水和構造や分子内部のキャビティ構造が、蛋白質の揺らぎ(動力学)をどのように制御しているのかを明らかにすることを目的として研究を行った。 モデル蛋白質である核酸分解酵素スタフィロコッカルヌクレアーゼについて、蛋白質と水和水の動きを研究用原子炉JRR-3における中性子散乱実験により観測するとともに、計算機シミュレーションを行い、蛋白質の構造の揺らぎに対する水和水の影響を定量的に調べた。その結果、水和水が蛋白質の表面全体を覆うネットワークを形成し、その水和水ネットワークの揺らぎが蛋白質の構造の揺らぎを誘導すること、すなわち、「蛋白質が生命機能を発現するには水和水がネットワークを形成することが必須である」ことを明らかにした。また蛋白質の揺らぎに対するキャビティ効果を調べるため、高圧下における中性子非弾性散乱を行った結果、室温における蛋白質の低エネルギー領域に見られる非調和運動が加圧によって抑制されることが分かった。また高圧下における分子動力学シミュレーションの解析から、低振動モードにおける局所構造間の揺らぎが圧力によって抑制されていることが分かった。キャビティは加圧によってその体積が減少すると考えられる。したがって、キャビティの存在が蛋白質の低エネルギー運動に寄与していると示唆される。
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