2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21770259
|
Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
武智 正樹 独立行政法人理化学研究所, 形態進化研究グループ, 研究員 (10455355)
|
Keywords | 中耳 / 鼓膜 / 進化発生 / 顎骨弓 / 咽頭弓 / 神経堤細胞 / 中耳腔 |
Research Abstract |
哺乳類の中耳は鰓弓骨格の形態進化の中でもとりわけ複雑なものであるとされ、200年以上も前から比較解剖学者や比較形態学者が議論を重ねてきた。私はこの形態進化の背後にある発生プログラムの変更を、モデル動物であるマウスとニワトリを用いて理解したいと考えた。まず問題を明確にするため、過去の比較解剖学者や比較形態学者の見解と近年の分子発生学や古生物学の知見をまとめて整理した総説を英文と和文でそれぞれ発表し、この形態進化を理解するために最も重要な問題は「哺乳類が下顎領域に鼓膜を形成したメカニズムを解明すること」であることを提起した。過去の比較形態学においては、哺乳類の鼓膜が下顎領域に形成されるのは「中耳腔が発生過程で腹側に膨出するためである」と説明されてきた。私はこの学説を検証するため、ニワトリとマウスの顎・中耳領域の胚発生を詳細に調べた。この結果、哺乳類の中耳腔(を含む鼓膜の)発生は他の羊膜類と同様であり、むしろマウスでは本来の顎関節(ツチ骨とキヌタ骨による関節)が著しく背側に発生し、それに伴い鼓索神経の走行も大きく変化していることを明らかにした。次に、咽頭弓発生時における下顎パターニング遺伝子(Fgf, Bmp, Endothelin1とその下流遺伝子群)の発現パターンを調べたところ、マウスの遺伝子はニワトリに比べて中耳腔に対してより背側に発現することがわかった。以上のことから、哺乳類で鼓膜が下顎領域に形成されるのは中耳腔が腹側に膨出するからではなく、下顎形態要素の一部が背側に発生するからであり、下顎パターニング遺伝子発現の異所的な変化がその要因であることが示唆された。
|