Research Abstract |
肝硬変時には肝機能の低下に伴い,全身性の蛋白質・エネルギー低栄養状態が生じる。この際,骨格筋が肝機能を代償するが,その反面,筋蛋白の分解や萎縮が生じ,患者のQOLが低下する。今研究では,肝予備能の改善を目的として,多分化能を有する脂肪由来性幹細胞(ADSC)を骨格筋へ移植し,骨格筋への分化・増殖を期待し,新しい代替治療法の確立を目指している。今年度は,ヒトADSCを骨格筋に移植したヌードマウスに対し,四塩化炭素(CCl_4)投与による肝障害時の肝予備能ならびに骨格筋萎縮に対する効果について検討した。ヒトADSC(1×10^5cells/10μL培養液)をヌードマウスの両側腓腹筋に計4カ所移植し,非移植マウスには同量の細胞培養液を注入した。1週間の飼育後,10%CCl_4-olive oil溶液を,50μL/100gBWにて,週に2回,5週間の腹腔内投与を行った。投与終了後,血液,下腿骨格筋(5部位),肝臓,脾臓を採取した。非移植マウスと比較し,ADSC移植により腓腹筋重量は有意に増加した。血清アルブミン(Alb)濃度ならびに血清総蛋白(TP)濃度は,統計学的有意差はなかったものの,ADSC移植により,CCl_4投与による減少の抑制効果が見られた(Alb:非移植群3.15±0.04g/dL,移植群3.44±0.04g/dL,TP:非移植群5.15±0.17g/dL,移植群5.70±0.23g/dL)。また,脾臓重量/体重比は,非移植群に比し移植群で有意な低値を示した。また,骨格筋重量/体重比も,移植群のいずれの部位において,非移植群より高い値を維持した。肝組織中の線維化の指標であるα-smooth muscle actin蛋白の発現量も,非移植群に比べ移植群において低値を示した。ADSCの骨格筋中への移植は,肝疾患の栄養不良状態による骨格筋萎縮を抑制し,血中蛋白維持や肝障害度の抑制対策にも有効な手段である可能性が示唆された。
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