Research Abstract |
これまでに我々は,胎生期のアルコール暴露による個体の認知・行動異常を改善させる脳内メカニズムとして,神経回路網維持・修復効果の重要性の観点から研究を進め,神経幹細胞の経静脈的移植がアルコール誘発精神疾患モデル動物の多動性と衝動性,社会機能,認知機能の異常を改善させることを明らかにしてきた。アルコールスペクトラム障害(FASD)モデル群を用いた検討では,末梢静脈から移植したラット胎児脳由来神経幹細胞が移植3ヶ月後の脳内に広範囲に存在し,蛍光色素で標識した移植細胞の一部は軸索形成と考えられる形態変化を示していた。移植した神経幹細胞が脳の諸領域でMAP2陽性の神経細胞,およびGFAP陽性のアストロサイトに分化していることを観察した。帯状回,海馬,および扁桃体では神経細胞に分化した移植細胞はGABA作動性ニューロン,セロトニン作動性ニューロン,アセチルコリン作動性ニューロンとさまざまなフェノタイプの神経細胞に分化していることも確認された。また脳の組織のシナプス蛋白PSD95含有量を測定した結果,帯状回前部と扁桃体でFASDモデルではPSD95が減少していたが,移植を行った群ではPSD95が増加しており,移植した細胞がシナプスを形成し、脳神経回路網に組み込まれている可能性がある。FASDでは血液脳関門に障害はないとされるが,FASDモデルにおいて,末梢静脈から移植された神経幹細胞が脳内に移行すること,そして3ヶ月後にも脳内に生存し,さまざまなフェノタイプの神経細胞やグリア細胞へと分化し,またシナプスを形成して脳の神経ネットワークに組み込まれている可能性を示した。帯状回,海馬,扁桃体は社会的情報の認知に重要な役割を担っているとされている。移植細胞がFASDモデルの脳領域に移行し,神経細胞として分化・生存していることが,行動異常の改善に関連している可能性も示唆される。
|