2009 Fiscal Year Annual Research Report
性同一性障害に対するホルモン療法が心理・認知機能に及ぼす影響についての縦断的研究
Project/Area Number |
21791155
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
永井 宏 Fukuoka University, 医学部, 講師 (30441760)
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Keywords | 性同一性障害 / 認知機能 / 心理学的特性 / ホルモン療法 |
Research Abstract |
【目的】性同一性障害者がホルモン療法を受けることにより、性差があるといわれている認知機能が彼らの自覚する性別に見られる傾向へ変化するか、また性ホルモン投与により心理学的特性が変化するかを検討する。 【方法】福岡大学病院精神神経科外来を受診した患者のうち、DSM-IVで性同一性障害の診断を満たし、これまでにホルモン投与の既往がないFTM症例を対象とした。14名のFTMがホルモン療法を受ける治療群として、5名のFTMがホルモン療法を受けない対照群として集められた。治療群に対するホルモン療法は、テストステロンエナント酸エステルとして1回250mgを2週間ごとに筋肉内投与した。ホルモン療法開始前とホルモン療法開始3ヵ月後に認知機能検査と心理検査をそれぞれ行った。対照群については認知機能検査の学習効果を評価するため、3ヵ月の間隔をあけて、治療群と同様の認知機能検査を2回施行した。ホルモン療法前とホルモン療法開始3ヵ月後の各検査項目の得点の比較は、対応のあるt検定を行い、有意水準はp<0.05とした。 【結果】認知機能検査では、男性優位課題のうち、空間認知課題においてのみホルモン投与後に有意に成績がよくなった(p=0.003)。女性優位課題については有意な変化は認めなかった。心理学的特性においては、ホルモン療法後に抑うつ・不安の尺度が有意に低下した。 【考察】男性ホルモンが生物学的女性の認知機能を完全に男性型に変化させるとは言えないが、男性ホルモンにより女性の空間認知機能に何らかの影響を与え、その能力を向上させる可能性があることが考えられた。心理学的特性においては、ホルモン療法により、自らが望む性別への身体的変化がみられたことで性器嫌悪を和らげ不安、抑うつを軽減させたと思われる。 【研究の意義】このような、性同一性障害者の認知機能や心理学的特性についての研究は日本ではほとんどなく、世界的に見ても数少ない。性同一性障害の研究自体が不十分ななか、今回の研究で性同一性障害に対するホルモン療法が与える影響について新たに客観的な知見が増えたことは意義のあるものと考えられる。
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