Research Abstract |
前年度より継続してマイクロRNA(micro RNA:miRNA)の発現を調節した消化器癌の性質の評価を行った.本年度は,具体的には,癌に関連するmiRNAの1つであるmiRNA-21の発現をヒト肝癌細胞株において導入または抑制して,発現調整後の癌細胞株の化学療法に対する感受性の評価を行った.ヒト肝癌細胞株としてPLC/PRF/5,HepG2を用い,化学療法の薬剤としては,インターフェロン-α(IFN-α),5-フルオロウラシル(5-FU)を用いた.miRNA-21の発現を増強させ,IFN-α,5-FUに対する耐性をMTTアッセイにて評価したところ,耐性の増強が確認された.このような耐性の増強は2剤併用治療においても確認された.またこれらの薬剤により誘導されるアポトーシスの量をAnnexin Vアッセイにて評価したところ,アポトーシス量は減少していた.次に,逆に,miRNA-21発現を減弱させるとIFN-α,5-FUに対する耐性が減弱した.2剤併用治療でも同様に耐性が減弱した.またこれらの薬剤により誘導されるアポトーシスの量は増加していた.miRNA-21が直接の標的としているPTENやPDCD4の発現をwestern blot法にて評価すると,miRNA-21の発現を増強させた癌細胞株ではこれらの蛋白の発現が低下していたことから,薬剤耐性の変化の原因としてこれらの蛋白が関与している可能性が示唆された.次に,これらの薬剤に対する治療効果が既に明らかである臨床検体におけるmiRNA-21の発現を評価し,その発現レベルと治療効果との関連について調べたところ,miRNA-21の発現が低い群では,発現が高い群と比較して,より良好な治療効果を認めた.これらの結果から,miRNA-21の発現とこれらの薬剤による治療効果には有意な相関があることが示唆された.この知見によって,miRNA-21の発現を低下させることが出来る薬剤が開発されれば,化学療法に対する感受性を低下させることで,癌に対する治療をより有効なものにすることが出来る,可能性が示唆された.
|