2010 Fiscal Year Annual Research Report
乳酸値(d体)を用いた腸管虚血・壊死の早期診断法の確立
Project/Area Number |
21791770
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
巽 博臣 札幌医科大学, 医学部, 助教 (70404613)
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Keywords | 腸管壊死 / 腸管虚血 / 乳酸 / 光学異性体 |
Research Abstract |
嫌気性代謝の最終産物である乳酸は、組織の酸素需給バランスを反映する。心拍出量や酸素飽和度などの酸素供給量を規定する因子が障害される病態で、血中乳酸値(以下、乳酸値)が経時的に増加あるいは高値が持続する場合には、生命予後と強く関連する。同様に虚血による乳酸産生が増加する急性腸管虚血では、補助診断として乳酸値の有用性が報告されているが、経時的な推移と腸管虚血の診断・予後との関連については十分に検討されていない。 乳酸には2つの光学異性体(l体、d体)が存在し、l体があらゆる臓器において低酸素の状況で増加するのに対し、細菌由来のd体は哺乳類の組織では産生されず、腸管虚血による粘膜障害が生じ、腸内細菌の異常増殖が起こると門脈血流へ放出される。したがって、d体は腸管虚血に特異的なマーカーとなりうると考えられる。現在は迅速に両者を区別して測定することはできないため、早期診断には応用できないが、d体のみを迅速に測定可能となれば小範囲の腸管虚血を高感度で検出できる可能性がある。 乳酸の光学異性体(l体、d体)の特異的な測定法を確立し、上腸間膜動脈阻血モデル(腸管虚血群)および外腸骨動脈阻血モデル(下肢虚血群)を用いて虚血後のl体乳酸、d体乳酸の経時的変化を観察した。l体乳酸は腸管虚血群、下肢虚血群とも同様に高値を示していた。一方、d体乳酸は下肢虚血群ではほとんど上昇がみられなかったのに対し、腸管虚血モデル群では虚血30分・60分後に高値を示し、120分には低下するという結果が得られた。通常測定できない乳酸の光学異性体を個々に測定することが可能となり、腸管虚血・壊死の迅速かつ特異的なマーカーになる可能性が示唆された。今後、臨床検体(血清)を用いた乳酸光学異性体の測定を行う予定である。
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Research Products
(1 results)